著者さんとこの本と2018年に発売した「きんぎょ飼育図鑑」。

著者である杉野裕志さんをお招きして、本について、または金魚についてお話していただきました。

きんぎょ飼育図鑑 Many Lovely Goldfish

きんぎょ飼育図鑑豊富な品種を詳しく紹介!

一歩先を行くための金魚飼育図鑑 ! 伝統の金魚から、変わりものまで、近年、日本で流通した品種をほぼすべて網羅した充実の金魚図鑑は、各金魚コンテストで重賞を獲得した個体を多数掲載しています。

また、飼育解説では愛好家宅を訪問取材するなど、実際の飼育の実例をわかりやすく紹介しています。数ある金魚飼育本の中でも初心者もちろん、中・上級者も満足できるであろう他にはない1冊です!

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著者略歴
杉野裕志 Hiroshi Sugino 
杉野裕志1962年生まれ。歯科医師。幼少の頃から生き物が好きで、特に金魚とグッピーには深く関わってきた。遺伝に造詣が深く、グッピーではいくつかの品種を作出、金魚では1990年頃から遺伝研究に着手。著書・共著書に「金魚のすべて」(2002年/エムピージェー)、「金魚80品種カタログ」(2008年/どうぶつ出版)、「かわいい金魚」(2012年/エムピージェー)、「きんぎょ飼育図鑑」(2018年/エムピージェー)などがある。

歯科医師で金魚愛好家

まずは魚遍歴を教えていただけますか。

杉野:魚は物心ついた頃から飼っています。ですからもう50年以上のキャリアになりますね。生き物は全般的に好きだったのですが、喘息持ちで体が丈夫でなかったことから、昆虫採集にも行きづらかったし、たくさんの鳥を飼うこともできなかった。それで、アクアの世界に落ち着きました。

現在はアマチュアの愛好家ということでよろしいですよね。

杉野:本業は歯科医師ですし、金魚を販売することもありません。金魚にはお金を使うばかりで赤字になります(笑)。

50年前の飼育生活にも興味があります。

杉野:あの頃の僕はたくさんの種類の金魚を水槽で飼っていて、今思えば一番楽しかったかもしれない。当時からいろんな品種の写真が見たくてたくさんの本を集めていたのですが、水槽飼育については実践的な情報がほとんどありませんでした。また、愛好会には入っていなかったから、飼育は試行錯誤という感じでしたね。

当時はどんな飼育が一般的だったのでしょうか。

杉野:本に書いてあったのは池での飼育方法が中心でした。ですから、一般の方がそれを真似るのは難しかったと思う。私の場合、水槽飼育では底面式フィルターを使っていて、その後にコーナーフィルターも使ったかな。上部式フィルターが販売されてからは主に上部式フィルターを使うようになりました。上部式フィルターは金魚の飼育にとても向いていると思います。

品評会の会場では杉野さんと何度かお会いしたことがあります。品評会もまめに通われていますよね。

杉野:今はコロナで品評会も休止になっているものがありますが、そもそも品評会はたくさん魚が見られるので好きなんです。観賞魚フェアは1978年の第一回からすべて足を運んでいますし、その前身の品評会も見に行っていた。その他の品評会にもできるだけ足を運んでいますよ。

「金魚のすべて」から「かわいい金魚」まで

これまで杉野さんはいくつかの本で執筆されていますよね。

杉野:はじめにご依頼をいただいのが、2002年の「金魚のすべて」でしたね。

金魚のすべて
金魚のすべて(2002/エムピージェー) ※写真は増補改訂版

当社の本になります。

杉野:当時は40歳になる前に金魚の本を書きたいと思っていた。ですから夢が叶った形になります。

執筆の依頼があったときはどんなお気持ちでしたか。

杉野:金魚の本は誰よりもたくさん持っているし、僕自身いろいろな金魚に興味がある。ですから、金魚について語れることはたくさんあったし、語りたいと思った。

その後、2008年には「金魚80品種カタログ」、2012年には「かわいい金魚」と2冊の本で執筆されています。

かわいい金魚
かわいい金魚(2012/エムピージェー)

杉野:10年の間に3冊で執筆した形になります。

杉野さんの原稿は平易で、初心者にも読みやすいと思います。

杉野:私は他の熱帯魚やグッピーと同じようにあまり愛好会には属さずに金魚と付き合っていました。愛好会で習うような専門用語を知らないから、わかりやすい原稿になるかもしれません。

原稿の他に気をつけていることはありますか。

杉野:金魚は写真によってはかわいく見えないこともあるから、写真の選定には意見を言わせてもらいました。どの本にしろ、とにかくかわいい金魚をたくさん載せたかったんです。

いよいよ「きんぎょ飼育図鑑」

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑(2018/エムピージェー)

「かわいい金魚」の発刊から6年後の2018年に「きんぎょ飼育図鑑」が発刊となりました。

杉野:そうですね。すでに3冊も金魚の本で執筆していたし、声をかけられた当初は「もう書くことないぞ」と思いました(笑)。

無理をお願いしたのかもしれません(笑)。

杉野:ただ、作ると決まれば、できることもあります。「かわいい金魚」の内容には自信があったので、飼育本文などは「かわいい金魚」をベースにしつつ、金魚の写真を大幅に入れ替えることにしました。

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑より

当社も6年のあいだに新しい写真を撮り溜めていました。

杉野:また、たとえば琉金といっても、たくさんのカラーバリエーションや体型を掲載するように努めました。コンテストで良い賞をとった金魚ばかりを載せても、印象としては同じような金魚が並ぶことになりますから。

「きんぎょ飼育図鑑」に限らず、金魚の個体写真についての解説は、杉野さん独特の視点があると思います。

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑より

杉野:ある時期に魚の解説に目覚めまして。解説を書くのが面白くなってきたということはあります。

具体的にはどんなところに気をつけて書かれていますか。

杉野:欠点を挙げるのは簡単なんです。その品種の基準から離れていれば、それは欠点になりますから。また、ヒレや体の歪みなどは目に見てわかりやすい。

良さを書くのは難しいと言いますね。

杉野:そうなんですよ。ですから、私はその金魚の持つ良さをなるべく書こうと努めました。写真に添えられる短い原稿で良さを書いた。そして本文に書いていないミニ情報も盛り込んでいます。

これは編集部からの提案でしたが、「きんぎょ飼育図鑑」では賞をとった個体を掲載する際、その賞の名称を写真に書き添えています。

杉野:資料としては良いですよね。ただ、読んだ人にはあまり関係ないかもしれない(笑)。

金魚はペットでかわいければそれで良いという面もありますからね(笑)。

杉野:そこはとても大切で。先にも述べたように、初めに携わった「金魚のすべて」から一貫して、かわいらしく見える魚の写真を選定しています。

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑より

当時、新しい金魚も掲載しましたね。特にドラゴンスケールは杉野さんが深く関わっていたこともあり印象に残っています。

杉野:鏡鱗(ドラゴンスケール)は、錦鯉などにもあるから、絶対に金魚にもあると思っていました。自分で作出しようとしていたし、また入荷の中の混じり物にも目を光らせていました。

ドラゴンスケール
ドラゴンスケール(金銀鏡)。写真は杉野さんの飼育個体。 Photo by Hiroshi Sugino

そのドラゴンスケールの入荷があって。

杉野:あれはいつでしたか。(20134年頃)月刊アクアライフの広告にドラゴンスケールが載っていたんです。それで、その広告主にすぐに電話して購入しました。その個体は越冬に失敗してしまったのだけれど、のちに輸入を手がける他の業者さんに見つけていただき、それをもとに殖やしました。

当時、杉野さんが夢中になっていたのは知っていましたし、私も面白い金魚だと思いました。ところで中国ではドラゴンスケールが作られていたんですかね。

杉野:中国では数多い中にはいたのかもしれない。ただ、ドラゴンスケールに限らず、こんな魚が欲しい、こういう魚が面白いんだ、というアピールをする、それ自体が大切だと思っていまして。

といいますと。

杉野:生産者や販売者は、売れるものを取り扱うことが仕事ですから。新しい需要については、きちんとアピールする必要があると思うんです。

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑より

そのドラゴンスケールも今では普及種と言っていいと思います。さて、「きんぎょ飼育図鑑」において他に印象に残る記事があれば。

杉野:「愛好家紹介」がありますね。あれは編集部の取材によるものだけれど、私も好きなコーナーですよ。

どういう点が良いですか。

杉野:愛好家が実際に飼っている様子ですよね。写真に情報量があるんです。こういう餌を使っている、こんな場所に水槽を置いているんだ、などですね。

きんぎょ飼育図鑑
きんぎょ飼育図鑑より

金魚がより発展するために

そろそろお話もまとめに入ろうかと思います。

杉野:「金魚のすべて」を作った当時から20年経って僕も60歳になります。以前から考えていたことですが、そろそろ若手、1020代ですね、そういう世代を育てたい……というと語弊がありますね。洗脳したい(笑)という気持ちがあります。

時が経つのは早いものです。

杉野:僕みたいは変な愛好家は、次の世代にも必要だと思うから(笑)。

変というのもどうかと思いますが(笑)。

杉野:ただ、そういう人は僕が生きているうちには現れないかもしれない。その点、本を残しているのは心強いですね。次世代の人に、何かしら引っ掛かってくれれば良いと思います。

熱心に取り組む人がもっともっと増えて欲しいですね。

杉野:そのためには金魚をさらに魅力的なものにしなければいけないと思います。私は今まであった金魚に魅力を感じてきました。しかし、次の世代にはそれが当たり前になっているから、より魅力的な金魚が生まれないといけないし、それがなければ後進も出てこないと思います。

新しい金魚も時が経ち普及すれば普通になります。

杉野:そうなんですよ。そもそも僕が金魚を面白いと思ったのも、金魚が変わった魚であったからで。

……? それはどういうことでしょうか。

杉野:僕が金魚を始めた50年以上前、昭和40年代は、変わった魚といえばまず金魚という時代だったんです。

伝統的というイメージが強い魚ですが。

杉野:その頃は中国金魚がたくさん入ってきた時期で。それが国内でも養殖されて見かける機会が増えていたんです。頂天眼、水泡眼、丹頂などですね。

今でもそれらは中国金魚と呼ばれることがありますね。

杉野:当時、それらの金魚はかなり「とんがった魚」であり、金魚の飼育ブームでした。中国のお宝が来た、これまで見られない金魚が来た、ということで多くの人が夢中になったんです。

金魚が「とんがった魚」であった。当時を知る人でないと、なかなか実感できないと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

杉野:こちらこそありがとうございました。

お話を終えて

杉野さん4冊目の金魚の本となる「きんぎょ飼育図鑑」は発売から4年経った現在も絶賛発売中です。夏祭りのシーズンとなり、金魚すくいで金魚を迎える人も多いだろうことから、この度、杉野さんにお話をお聞きして、こうして公開しています。アマゾン他ECサイトで購入された方は、是非レビューをお願いします。

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20228月初旬 聞き手/山口正吾