
国内では10 年以上ぶりとなる3000 種レベルのアクアリウム図鑑がこの度発刊となる。
その制作を担当した大美賀氏と編集部の山口が本書への思いなどを語った。
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『最新 アクアリウム超飼育図鑑 3000 種』 熱帯魚、水草、メダカ、金魚、錦鯉、日本産淡水魚、両生類、甲殻類、貝など、アクアリウムショップで見られる生物を一堂に会した大図鑑 |
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大美賀 隆 1993 ~ 1998 年、月刊アクアライフ編集部に在籍。フリー転向後にも数多くのアクアリウムに関する記事や書籍を手掛ける。『3000 種図鑑』では編集とDTPを担当。
山口正吾 1996 年~月刊アクアライフ編集部に在籍。山口からみて大美賀さんは編集部の先輩にあたる。『3000 種図鑑』では企画・進行などを担当。 |
本誌の蓄積をこの1 冊に!

山口:いよいよ『3000種図鑑』が発刊となりますね。
大美賀:長かったなぁ。ずっと缶詰生活だったよ。
山口:お疲れ様でした。まずは『3000種図鑑』の成り立ちから話しましょうか。
大美賀:山口君からお願い。
山口:はい。月刊アクアライフ(AL)では2021年から2024年まで、毎年1月号に『800種図鑑』を特集で組んでいたんですね。

大美賀:そうそう。
山口:その『800種図鑑』をまとめて『3000種図鑑』を作ろうというアイデアが、そもそもの始まりです。
大美賀:『800種図鑑』は4回あったから、単純計算で合計3200種から掲載種を選ぶことになる。
山口:そうなりますね。
大美賀:ただ、数が足りているから『3000種図鑑』を簡単に作れたかといえば、そんな単純な話ではなく。
山口:書籍ならではの構成を考えると大幅な調整が必要でした。『800種図鑑』のままでは分野ごとに数のバラツキもありましたし。

大美賀:それもあって『800種図鑑』だけではなく、ALの過去記事からのピックアップもかなり多かったんだよね。
山口:でしたね。
大美賀:そうした取捨選択を繰り返して、全体、章、ページごとの収まりを整えていったんだけれど。
山口:そこは時間がかかりました。
大美賀:たしかに数の調整は大変だった。一番、苦労した部分だったかもしれない。
山口:3000種ぴったりというのも難しさの一因でした。また、編集だけではなくDTP(ページレイアウト)や細かな文字訂正も大美賀さんにお願いしましたし。
大美賀:デザインのフォーマットはデザイナーさんに作ってもらったけれど、全てのページレイアウトをデザイナーさんにお任せすることは難しかったろうな。
山口:膨大な量のやり取りになりますからね。比例して過程でのミスが増えますし。
大美賀:だよね。
山口:編集担当である大美賀さんがDTPを行なうのはベターであったと思います。
大美賀:3000種という数の多さによる仕事の量と編集の細かい作業が合わさって、押しつぶされそうになったのも実際のところで。
山口:それも全国のアクアリストに喜んでもらうためですから。
大美賀:そうだね。それに、こうした大きな仕事は一生に一度あるかないかだろうからさ。そんな思いで向き合っていたよ。
『800種図鑑』からのブラッシュアップ
山口:『3000図鑑』に掲載した解説に関しては『800種図鑑』を踏襲した形となります。
大美賀:それぞれの種で分布と水質など飼育の要点をデータ化して、特徴はキャプションとする形だね。
山口:ただ、それも『800種図鑑』からそのまま引用したのではなく。
大美賀:そうなんだよ。ALの『800種図鑑』は編集部やライターさんが分担してライティングしていたでしょう。
山口:はい。
大美賀:基本的に解説は同じルールで書かれているけれど、細かいところにそれぞれのクセが出ていたから『3000種図鑑』の掲載にあたってはだいぶ調整した。
山口:雑誌と書籍では編集の性質が異なりますよね。書籍は長く残るものであるし。
大美賀:それと近年は分類が大きく変わったから、『800種図鑑』に載っていた情報を更新しなくてはならないことも多くてね。
山口:そこは生物の本ならではといいますか。
大美賀:全ての種で裏付けを取ったので、それも大変だったかな。大変、大変というのも押し付けがましい話だけれどさ。
山口:(インタビュー時は)校了したばかりですから、素直な感想だと思いますよ(笑)。
大美賀:まあね(笑)。
山口:それで、趣味の分野とはいえ3000種もの掲載がある図鑑です。私としては「辞書を作るような仕事になるぞ」と気を引き締めてスタートをしました。
大美賀:それは同じ気持ちだった。例えば『800種図鑑』では表記や用法のブレもあったから、その統一などでだいぶ頭を使った。
山口:ですよね。わかりやすい例ではOcellatus問題がありました。
大美賀:学名のカナ表記だよね。オセラータスとするかオケラートゥスとするか。ただ、これもルールに則って表記すればいいという単純な話ではなくて。
山口:流通名と大きく異なってしまうと流通種をガイドするという『3000種図鑑』のコンセプトから外れてしまいますから。
大美賀:そこは最後まで悩んだなぁ。事前の打ち合わせで細かくルールを決めてはいたけれど、作業していると想定外がどんどん出てくるしさ。
山口:最終的には折り合いをつけながら表記を決めていきましたね。
大美賀:そのあたりはアクアリウム雑誌や書籍にとって長く続く課題だろうね。
人が作った図鑑の味わい!?
山口:他社も含めて日本では3000種レベルのアクアリウム図鑑は10 年以上発刊されていません。そうした中での『3000種図鑑』の発刊であるわけですが。
大美賀:そこは強く意識したよね。10 年経てば流通種もだいぶ変わるしさ。
山口:タイトルに「最新」と銘打ったのはそれを意識したこともあります。
大美賀:入稿の直前に「(コリドラス)ビーコンコロールを入れてください!」と山口君から連絡があったりね。
山口:『3000種図鑑』は編集作業におよそ1年がかかっていますから、その間に新着もありますし。特にビーコンコロールみたいな注目種は載せておかないとマズい。
大美賀:「最新」という意味では、近年人気が急上昇した熱帯産のボウズハゼや、金魚のドラゴンスケールなども網羅したよね。一方で、戦前から愛される「並エンゼル」のような古典的な魚もしっかり押さえた。
山口:新旧のバランスには自信があります。「今のショップの棚」をそのまま一冊に凝縮したようなライブ感がありますよね。
大美賀:うまいこと言うね。
山口:その一方で、掲載種のバランスという点では『3000種図鑑』は個性が強いと感じていまして。例えば、アピストグラマの掲載が相対的に多かったり……。
大美賀:ん? そうかな(笑)?
山口:掲載種の選定はすべてが大美賀さんによる判断ではないのだけれど、それでも大美賀さん、または私の個性が出たのかなという気もします。
大美賀:得意なグループ、好きな魚というのはたしかにあって、意識せずともそういう構成となったのかもしれない。
山口:それはネガティブな面だけでもないと思うんですよね。多かれ少なかれ「好き」は流行や市場に左右されますし。
大美賀:それはあるね。それに多少の凸凹は「人が作った図鑑」の味わいになるしさ。
山口:ふと思ったのですが、もしかしたら「人が作る図鑑の味わい」は、いずれ薄れていくのかもしれません。
大美賀:それはなぜ?
山口:AIが根本的な構成から考える時代が来ると思うんですよね。
大美賀:それねぇ。今回も折々でAIは使ったけれどさ。
山口:近いうちにもっと抽象的な作業もこなすようになるはずで。
大美賀:AIの作る出版の未来はわからないけれど可能性は高い。でもさ、AIはその「人間味」も表現しちゃうんじゃない?
山口:たしかに(笑)。ともあれ、大美賀さんも私も編集としてはベテランですし、これまでの蓄積を形にできた、それはある意味幸運ですよね。年齢を考えると「間に合った」感があります。
大美賀:読者のことを思って作った図鑑だけれどね。それとは別に自分たちの経験なり思いが次世代に繋がるのだとしたら嬉しいよ。
バトンをつなげる気持ち
山口:「間に合った」といえば、近年の物価高についても触れておく必要がありますね。
大美賀:というと?
山口:『3000種図鑑』は多くの人に手に取ってもらうのが目標だから定価を抑えたかった。
大美賀:うんうん。
山口:印刷や物流など原価に関わる全ての価格はこれからも上がるでしょうし、「出すなら今しかない!」というタイミングでした。
大美賀:税込5000円以下という目標は山口君から聞いていたよ。600ページを超える図鑑だし難しい仕事だったんじゃない?
山口:『800種図鑑』をベースにしているから、それは可能だろうと読んでいたし、作業の組み立ても定価ありきで行ないました。
大美賀:それは作業していても感じた。
山口:その他、多くの取引先、関係する皆さんにご協力をいただきまして。ほんとうに感謝しかありません。
大美賀:ALをベースにした。それは制作の現場においても感じる場面が多くてね。
山口:といいますと。
大美賀:ALはもうすぐ創刊50年になるでしょう。石津さん(故人)ほか過去の編集、カメラマン、ライターの頑張りが、この一冊で結実しているんだよね。
山口:たしかに。
大美賀:一つ一つの写真や解説に、ALの制作に携わった皆の思いが乗っている。それは伝えておきたいな。
山口:他に、取材で良い魚を撮らせていただいた愛好家、ショップ、問屋ほか皆さんのありがたさを身に染みて感じました。

大美賀:そういった意味では、半世紀に及ぶ日本のアクアリストの活動が『3000種図鑑』には記録されているんだよな。
山口:これを読む皆さんにとっては大袈裟に聞こえるかもしれませんが、そんな気持ちで私たちが仕事をしていたのは間違いなく。
大美賀:あとは受け取った皆さんからの評価になるけれど、次も出せたらいいよね。
山口:ですね。次は3500種になるのかな。
大美賀:大変だろうなあ(笑)。
山口:AIに手伝ってもらいましょう(笑)
この対談は2026年2月14日の収録







