QA100シリーズ最新刊「金魚QA100」の著者をお招きして、その金魚人生についてうかがってみた。(20253月収録)

構成・写真/編集部

◆PROFILE
川澄太一さん Taichi Kawasumi
1977 年生まれ。東京農業大学第一高等学校・理科教諭・生物部顧問
インスタグラム @nogoldfish.nolife
金魚QA100
2025年3月発売 A5判 168ページ 1500円+税
(株)エムピージェー発行

金魚にどっぷりの学生時代

――まずは川澄さんの「人となり」から。金魚を初めて飼ったのはいつ頃ですか。

34歳の頃ですかね。親が小赤と黒出目金を買ってくれました。それから春になると毎年金魚を買ってくれるようになって。また、その頃、親が図鑑を買ってくれたんですね。イヌやネコも載っている図鑑ですが、僕は金魚のページばかりを読んでいました。

――以来、金魚一筋であると。

実家は兵庫県だったのですが、奈良県の中学校に入学することになりまして。それで、親元を離れて引っ越したんです。それから高1の秋まで、金魚を飼っていませんでした。ただ、奈良といえば郡山がありますし、金魚の本場ですから。高2くらいからまた疼き出して、学校帰りに金魚屋さんに寄ったりしていました。そこで、金魚についていろいろと教わりましたね。

――大学への進学も金魚を軸にされて。

東京水産大学(現東京海洋大学)に入学しました。特に金魚の病気について学びたかったんですね。金魚を飼っていると、どうしても病気を避けられないし、その治療が必要になります。ただ、あまり真面目な学生ではなかったかな(笑)。

――そうなんですね(笑)。

その後、同大学の院にも進みまして、金魚で有名な岡本先生のもとでキョーリンさんの協力を受けたりもしながら、錦鯉の遺伝的多様性や錦鯉の体力を上げる研究に取り組みました。このときに身につけたPCRの技術などは今も役立っています。

ご自宅の飼育スペース。屋内飼育で立派な金魚を育て上げるノウハウを蓄積していった

教員として愛好家として

――現在は教職につかれていますね。生物部の顧問もされています。

職場(高校)は何度か変わっていて。どの職場でも生物部の顧問をしていたわけではないんですよね。生物部がない学校もありますし。ただ、自分の好きなことを部活にすれば生徒にも良い指導ができると思い、生物部を立ち上げたこともあります。

――生物部で金魚というのもユニークな気がします。

生徒は春に入学するじゃないですか。その時期はちょうど金魚の産卵期にあたるので、仔魚の成長や退色の様子を見せると、興味を持ってくれるんですよね。生徒全員ではないのですが、そこから金魚の研究に入る生徒が多いです。

――愛好家としての活動はいかがですか。

「観賞魚フェア」には2005年から出品していました。ただ、なかなか受賞できず悩んでいたんです。そのとき、学生時代の友人の飼育方法を思い出しまして。とにかく餌をたくさん与えるんです。すると金魚が大きくふくよかに育つ。僕もその方法を実践したところ、2008年には部門の1位を獲りました。嬉しかったですね。

――そのあたりはこの度の著書「金魚QA100」にも書かれていますね。最初、原稿を読んだ時には、びっくりしました。

30分で食べ切れる量の餌を与える」というくだりですよね。普通、熱帯魚では数分と聞きますから、驚かれたのもわかります。ただ、この給餌を基準にした管理方法もありますし、闇雲に餌を与えるわけではないんですよ。

――金魚好きの生徒さんと学外で行動を共にされることもあるとか。

生徒とは品評会を見学に行ったり出品したり。時には販売会に金魚の買い出しにも行きますよ。今の生徒は、金魚の好みが僕と違うので、お目当ての金魚がバッティングしないんです。

――生徒さんがライバルになることもあるんですね(笑)。

そこはお互い真剣ですから(笑)。卒業した生徒と一緒に品評会に顔を出したりしていますし、同窓会のようで楽しいですよ。

「餌は30分で食べ切る量」など、川澄さんならではの飼育方法も「金魚QA100」には掲載している

金魚は美術的

――夏には金魚の個展を開いていますね。

原宿デザインフェスタギャラリーで「金魚展」と称した個展を開催しています。

――そのきっかけは。

「観賞魚フェア」が都内で開催されなくなった時に、首都圏では水槽で金魚を横から見る機会が減ってしまう……と危機感をもったんです。であれば自分が! と思いました。最初が2022年でそれから毎年の開催。今年も予定していますよ。

――自身の飼育する金魚を展示する、その発想が面白く感じます。

僕の通う喫茶店の常連に画家の方がいて。個展の話をしてくれたんです。それがヒントとなりました。きれいな金魚なら家に山ほどいますから、展示作品には困らない(笑)。

――装飾的で個体差の大きい金魚ならではかもしれません。

僕は映画も音楽も好きなんです。ただ、美術館には足を運ばない。なんでかな……と考えたんですが、僕にとっての金魚が美術的なものだからだと思う。そこに満足しているし、集中しているんですね。

――金魚にかける熱量がとても大きいように思えます。

たとえばバンドで良い曲ができたらみんなに聴いてもらいたいと思うじゃないですか。それと一緒ですよね。こんなにきれいな金魚を世の中の人が見られないのは、もったいない気がするんです。

「金魚展」では自身の飼育する金魚を展示

重要な情報はすべて載せた

――「金魚QA100」を出版するに至ったきっかけをおしえてください。

原宿の個展に月刊アクアライフの編集の方が訪ねてくれて。そこで「ウェブ連載を始めませんか」と声をかけてくれた。その連載をまとめたのが今回の「金魚QA100」なんだけれど、その以前から金魚について本にまとめることは意識していました。いずれ本を出したいと思っていたし、周りから「書いたら」とすすめられることも多かったんです。

――なぜ金魚の本を出したいと思っていたのでしょうか。

市販されている金魚の本を読むと、「ちょっと僕には合わないな」「ここは見解が異なるぞ」と感じることがあったんです。であれば、自分で書いてみようと。

――「金魚QA100」の執筆にあたって気をつけたことがあれば。

他の飼育本に書かれている内容と異なっても、自分が重要だと思っていることを全て載せました。そして、本を読んだ読者が、同じように作業できること、つまり再現性を重視しました。たとえば、ヘルペスや白点病の治療であれば、水温や手順などを具体的にわかりやすく書いたつもりです。

――文体はカジュアルですよね。ところが内容を読むと、自身の言葉で書かれている印象があり、そこに説得力を感じます。

受け売りなし、と自負しています。これまで生物部の生徒には、金魚の飼育について僕なりの言葉で伝えてきました。それで、成功しているのを見ていますから。そうして培ってきたノウハウが詰まっています。

――読者には「金魚QA100」をどのように活用してほしいですか。

100の質問に答える形ですから、困った時に開きやすい本ですよね。自分が今直面している問題に近い原稿を、目次から探すことができます。ただ、困っていない時にも読んでほしいですね。飼育だけではなく、金魚にまつわる僕なりの考えが様々な形で散りばめられているので。

――最後にあらためて、念願の本が出た、今のお気持ちをお聞かせください。

その前にちょっとお伝えしたいことがありまして。

――といいますと。

このたび生物部の生徒が、とんでもない賞を獲ったんです。「日本水産学会」が主催する研究の発表会、その高校生の部において最優秀賞を受賞しました!

――おめでとうございます。

その論文の下敷きとなるレポートは「金魚QA100」に掲載していますので、ぜひご覧ください。「眼の形質による行動の違い」というタイトルです。

――著書の発刊、生徒さんの受賞と忙しい毎日でしたね。

その賞を野球で例えると甲子園で優勝するようなもので、とにかくたいへんな名誉なんです。それが「金魚QA100」発刊の1週間後のことですから。嬉しいことが続きました。もう夢のようですね。