みなさんこんにちは。

アクアライフWEB編集部です。

本日のアクアの雑談は、言葉の変遷を探ってみたいと思います。

趣味の名前は、熱帯魚。

そんなお話です。

山口 正吾山口 正吾

思うがままに雑談をしました。

板近 代板近 代

私の中で「熱帯魚」という言葉は、自分が思っている以上に特別な言葉なのかもしれません。

アクアの雑談

アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部の板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。

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振り返る、熱帯魚という言葉

山口:板近さんがアクアリウムを始めた年代は? 90年代くらい?

板近:はい、子どものころなので正確には覚えていませんが、90年代になりますかね。

山口:物心ついた頃にはやっていたと。

板近:母が生き物好きというのもあり、気がついたときには生き物の飼育をしていたのですね。母と一緒にカブトムシの土を入れ替えたり。それで……アクアに該当する生き物はいつからだっけな…………ちょっと細かくは思い出せないですね。

山口:当時、アクアの趣味を表すのにどんな言葉を使っていました? アクアリウム? 熱帯魚?

板近:アクアリウムという言葉は使っていなかったですね。熱帯魚、金魚、カメ、ザリガニ。そういう感じの言葉を使っていました。

山口:そうですか。私が自覚的にこの趣味をはじめたのは90年代なのですが、「熱帯魚をはじめた」と思っていました。アクアリウムではなくて熱帯魚。

板近:私もその気持ちは覚えています。当時の私、相当嬉しかったんでしょうね。熱帯魚をはじめられたことが。

山口:ところで最近の人はどうなんですかね。アクア、という言葉がこの趣味を表している、そんな場面を多く見かけませんか。SNSのプロフィールに「アクア垢」と書いていたり。

板近:そうですね、よく見かけます。このブログを立ち上げる前の会議でも「アクアリウムのブログを作る」という話でしたよね。

山口:このコーナーも「アクアの雑談」ですよね。

板近:ええ。

山口:何を言いたいかと言えば、この20年くらいで「熱帯魚→アクアリウム」と、言葉のゆっくりとした置き換えが進んでいるのではないかと思っていて。肌感覚ですけれど。

板近:言われればたしかに。

山口:私個人的には90年台前半が起点なので、それ以前がどうかというとちょっと自信がないのですが。

板近:今ではアクアリウムという言葉は、あたりまえに使われる言葉ですよね。

山口:入社して、過去を振り返る記事を担当していたときには「第X次『熱帯魚』ブームが19XX年代にあった」みたいな記述を見かけることが多く。

板近:はい。

山口:『アクアリウム』ブームという記述は見かけなかったんですね、記憶の範囲ですが。

板近:お店に行くときも「熱帯魚屋さんに行く」でしたね。

山口:そうそう。熱帯魚屋さんと言ってましたよね。今でも使う言葉ではありますが。

板近:ええ。私も今でも使いますが、昔はアクアリウムショップという言葉は頭の中になかったんですよね。

山口:つまりは、熱帯魚という言葉は、「水生生物を飼う趣味そのもの」を表していませんでしたか。金魚や錦鯉などはそこから外れるにしろ 、水草の育成も小さなエビを飼うのも、熱帯魚。

板近:ええ。そうですね。たしかに金魚は別でしたが……あ、そういえば川でつかまえた魚も別の認識でした。

山口:川魚とか言っていたかな。ともあれ「熱帯魚屋さんで売っている水性生物を育成する趣味≒熱帯魚」みたいな感じでしたよね。「趣味の名前が熱帯魚」だった。

板近:はい。さっき例に出ていた水草やエビも、そういう感覚で「趣味は熱帯魚」の中に含まれていた気がします。

山口:「外国の魚ほか水性生物≒熱帯魚」。多分、当時はそれで違和感なかったんですよね。

アクアリウムという言葉の浸透

山口:じゃあ、なんで最近、アクアリウムという言葉がわりと見かけられるようになったかというと…………なんででしょうね?

板近:これは、私の過去を振り返ると、という話なのですが。

山口:はい。

板近:アクアリウムという言葉は「気がついたら普通に使っていた」って感じなのですね。それってもしかすると、ネイチャーアクアリウムの衝撃があったことなどが、大きく影響しているのではないかと。

山口:それは大きいかもしれない。

板近:なんというか、ネイチャーアクアリウムはネイチャーアクアリウムじゃないですか。言葉の感覚として。

山口:ネイチャーアクアリウムはそれで独立している言葉であると。

板近:ええ。他にもアクアリウムショップとか、ボトルアクアリウムだとか、アクアリウムを含む独立した言葉をよく目にするようになった。それでいつしか、アクアリウムという言葉を自然と使うようになったのかなというのが、私の感覚というか、個人的な振り返りですね。

山口:私が思うにですが、2000年に入ってからというもの、熱帯産ではないし、魚でもない生物がけっこう流行ったじゃないですか。メダカとかエビとか。ビオトープ人気もあった。もちろん以前から水草もとても人気があったし。

板近:はい。

山口:それらを熱帯魚としてまとめることを、皆がちょっとおかしいと感じはじめたんじゃないかと思うんですよね。

板近:熱帯魚という言葉では表現しづらいことが増えたと。

山口:熱帯魚って、文字通り「熱帯の魚」という意味ですから。

板近:そうですね。そういえば私も、友人からヤマトヌマエビについて質問された時に、熱帯魚とは別であることを意識して説明したことがありましたね。もしかするとそれは、そうしたエビも「熱帯魚という趣味」の中に含まれているという背景があったからかもしれない。

山口:それで、アクアリウムという言葉が徐々に浸透したのは、もしかしたら、SNSなどによる個人の発信が増えたことも関係しているのかな、と思ったり。

板近:たしかに、ネットの発展で、アクアリウムという言葉を含め、アクア関連のいろいろな言葉を目にする機会が増えましたよね。

山口:言葉に敏感な方が「あれ、私が飼っているの、熱帯産でもないし、魚でもないよな」と。たとえばレッドビーを飼っている人なんか、そう思う時が多そうじゃないですか。

板近:熱帯でもないし魚でもないぞと。

山口:昔は不特定多数に向けて発信することは、メディアなど一部の人の仕事でしたから。その人たちが使う言葉に疑問を持っていても、なかなか正す機会もなかったろうし。

板近:ええ。

山口:もちろん当時のメディアの人達だって悪意があるわけではなくて、皆に理解してもらいやすい言葉を選んだ結果が、たとえば熱帯魚だったのかもしれない。

板近:伝わりやすくするために、ということですね。

山口:そうです。

板近:その恩恵もありそうですよね。たとえば、熱帯魚という枠組みで紹介されたことで知ることができた存在も、あるのかもしれない。

山口:それはあると思います。海外の温帯魚なんて、そういう魚がけっこういるんじゃないですか。

板近:有名どころだと、アカヒレとかですね。そこに書かれている解説を読んだおかげで「熱帯魚じゃないんだ」と学べたこともありました。

熱帯魚雑誌としてのアクアライフ

山口:あとは2つの言葉のイメージも異なりますよね。

板近:といいますと。

山口:熱帯魚といえば、より生体にフォーカスしている感じがする。一方でアクアリウムは環境全体を指すというか。

板近:わかります。アクアリウムって、ろ過や照明を使えば、それもアクアリウムの一部であるし、逆に使ってなくてもアクアリウムであるし。

山口:だからこそ使える範囲が広いのかもしれない。

板近:そういえば。ちょっと話は変わりますが、私の中で昔は月刊アクラライフを「熱帯魚の雑誌」として認識していましたね。

山口:私もですよ。ただ、大昔の編集者はとても機転がきいていて。アクアライフのキャッチコピーは「魚とのコミュニケーション」だったんですね。

アクアライフ表紙

魚とのコミュニケーション
1984年2月号の月刊アクアライフ。ロゴは現在のものと違うが、キャッチコピーは変わっていない

板近:ロゴのところに入っているキャッチコピーですね。

山口:ええ。「熱帯魚とのコミュニケーション」ではなかった。

板近:言われてみると「たしかに!」と思いますね。今まで、そういう視点で見たことはなかったのですが……今ちょっと感動しています。いい言葉だなぁとは、ずっと思っていたのですが。

山口:いい言葉ですよね。本当にこの趣味をうまく表現していると思う。

板近:そういえば、私はアクアリウムって言葉よりアクアライフって言葉を先に覚えた気がしますね。

山口:私はもう全く記憶にないですね、そこら辺は(笑)。

板近:(笑)。子どもの時はお小遣いの中から、アクアライフを買うのって結構覚悟が必要だったんですよ。アクアライフも魚もほしい、でも両方買うお金はない……みたいな。どちらもすごくほしくて、すごく悩んで。そんな経緯もあって、アクアライフという言葉が強く残っているのかもしれません。

山口:なるほど。

板近:あと「アクアライフ」って言葉もいいですよね。

山口:いいですよね。完全に造語ですが。

板近:もちろん私はこの言葉を雑誌の名前として知ったわけですけども、アクアライフという言葉だけでも、いろいろイメージできますよね。まさにアクアな生活というか。

山口:当時は「なんとかライフ」という雑誌もっけっこうあったんで、この雑誌タイトルもすんなり決まったんじゃないですかね。

板近:さっき、月刊アクアライフは私の中で「熱帯魚の雑誌」だったとお話しましたが、今はそうではなく「アクアライフはアクアライフ」と認識していますね。

山口:以前は競合の月刊誌がいくつかありましたからね。今はより自立的な言葉になっているかも。

板近:あ、月刊アクアライフを読んだことがない方に誤解がないよう補足させていただくと、月刊アクアライフには、熱帯魚以外の情報もいろいろ載っています。号によって特集も違いますので、ぜひ以下リンクから一覧をご覧ください。

異国の魚への憧れ

山口:このあいだ私、図鑑(月刊アクアライフ2021年1月号 2020年12月11日発売予定)を作っていたじゃないですか。

板近:800種図鑑ですね。

山口:ええ。その時に、やっぱり熱帯魚の原稿を書いていると「飼いたいなぁ」としみじみ思うんですね。

板近:ああ、やっぱり思うんですね。

山口:はい。シクリッドでもカラシンでも、異国の魚はなんか違うんです。何だろうな、この感覚。

板近:言葉にするのは難しい感覚ですが、たしかにありますよね。

山口:多分、昔の人って、洋食に憧れがあったじゃないですか。それで、今でも、洋食はなんか小洒落ているじゃないですか。それに近いかなぁ。

板近:決して日本の魚が嫌いなわけでもないですし、むしろ好きなんですけど、熱帯魚への憧れはちょっとまた、なんか独特の感覚ありますよね。

山口:そうですね。

板近:私も、アクアライフブログのお仕事をやらせていただく中で「飼いたいなぁ」ってよく思いますよ。山口さんと魚の話で盛り上がったときなんて特に。最近だと、世界一綺麗な熱帯魚は? の回は、なかなかやばかったですよ(笑)。

当ブログ記事「世界一綺麗な熱帯魚は?」より。記事に画像を添付する作業も、熱帯魚が飼いたくなる要因のひとつです(板近談) Photo by N.Hashimoto

山口:ああ、その話いいですね。実は、私の中で記事の良し悪しを決める基準があって。

板近:はい。

山口:初校で「この魚を飼いたい」と思ったら、それはいい記事だなと。

板近:といいますと。

山口:各担当から校正用のプリントが回ってきますよね。そのときはもちろん誤字脱字のチェックや内容の確認をしているのですが、一人の趣味人として「この魚を飼いたい」と思う記事があるんですね。

板近:飼いたいというのは、アクアリストにとっては重要な感情ですよね。

山口:もともと魚が好きで入社したわけですから。そうした人間に響かない記事というのもどういうものかと思うんですよ。

板近:私もそう思ってもらえるような記事を書ける自分でありたいです。

山口:売り上げなどのデータも大切ですが、そこばかりを追っていても無味乾燥と言いますか。

板近:ブログもアクセス数が見れますが、そればかりに頼らないようにしています。

山口:どちらがいいともいえないけれど。何にせよ、編集部には魚好きばかりしかいないのだし。そこで心を動かさない記事は、読者の皆さんにも刺さらないですよね。

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