みなさんこんにちは。アクアライフWEB編集部です。

 

本日は、100万円を超えたことのある淡水性熱帯魚などを紹介しながら「高級な熱帯魚」というお題を掘り下げていきます。

高級には、どんな形があるのか。

高価であるという一点ではなく“様々な高級”に触れていきますので、どうぞご覧ください!

山口 正吾山口 正吾

お金の話だけではあれなので、感性の部分もお話ししました。

板近 代板近 代

高級。そこには、人の思いがこもっているのだなと感じました。

アクアの雑談

アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、株式会社エムピージェー出版部長で月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部に社外からの協力スタッフとして参加している板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。

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高級な熱帯魚

山口:この雑談で過去に何度か触れたように、熱帯魚にもいろいろあるわけですが、みなが興味あるところで「高級」というのかな。そういうポイントもあると思うんですよね。

板近:たしかに。

山口:熱帯魚といえば自分だけの宝物、自分が気に入っていればそれでいい、そういう世界でもあって。それでも、他の人が羨ましいと思うような魚がいる、または、自分が手に入れることで喜びとなるような魚がいる、これもまた事実で。

板近:羨ましい、に近いかもしれませんが、価格を見て「飼いたいけど手が出ないなぁ」と思った経験がありますね。

山口:そういう経験をしたアクアリストも、多いと思います。そんな感じで今日は「高級な熱帯魚」というお題で話していきたいと思うのですが、どうでしょう。

板近:いろいろな発見がありそうなお題です。

まずは、高価な熱帯魚たちの話から!

山口:私は、高級という概念は一口に括れない面もあると思っていて。

板近:私もそう思います。

山口:たとえば「価格が高い」という話。これはわかりやすいですよね、お金が基準になりますから。絶対的な値がある。

板近:ええ。

山口:また、価格は高くなくても高級「感」がある魚もいるし、その両方を兼ね備えた魚もいる。つまりは、価格が高い魚について話している最中にも、違う高級が見えてくることもあると思うんですね。

板近:高いにも、理由があるわけですもんね。

山口:でもまぁ、ある程度話の方向性を決めたほうが考えもまとまりやすいかと思うので、まずは「高価」を基準にして話を進めていきましょう。

板近:承知いたしました!

アジアアロワナ

レッドアロワナ
アジアアロワナ Photo by N.Hashimoto

山口:高価な魚としてわかりやすいのは、まずアジアアロワナが挙げられると思うんですね。

板近:わかりやすいです。

山口:私が本格的に(雑誌の)記事としてアジアアロワナを扱った頃、今から20年以上前の話ですが、だいたい他の熱帯魚より高価であったんですね。それから今現在に至るまで、アジアアロワナというグループ自体が価値を保ち続けているとも感じますし。

板近:子どもの頃から、アジアロワナは高価であるというイメージがありますね。

山口:また、この魚はただ高価というわけではなくて、値段相応の風格があるというか、高級「感」もあって。魚を見て、その価格を見て、多くの人が納得しやすい魚だと思うんです

板近:アクアリスト以外が見ても納得するであろう高級感がありますよね。

山口:ええ。これにはサイテスⅠ類であることや、バンバン殖やせる魚ではないという理由もあるとは思うのですが。つまりは希少性ですね。

板近:はい。

山口:さらに、ファーム(アジアアロワナの養殖場)も、胡座をかいていないというか、競争の中でよりよい個体、より希少性の高い個体が提供されてきた背景もあると思うんです。実際、折々で愛好家が興奮するような個体も輸入されていますから。

板近:高級であり続けるだけの背景が、ちゃんとあるわけですね。

山口:大型魚であることから相応の設備も必要なこともあり、「いつかはクラウン」ではないけれど「いつかはアジアアロワナ」という憧れを持ちやすいと思います。ステイタスになっている。家に訪れる人がいれば「いい魚飼っていますね」と話が弾むような。

板近:「いつかはアジアアロワナ」という言葉、スッと入ってきました。

山口:品種やブランドにもよりますが、今でも2桁万円で売られていることが普通であるし、希少な個体になると3桁万円もあった。

板近:アジアアロワナの中でも、特に高価であった例など教えてもらえますでしょうか。

山口:たしか初のアルビノ過背金龍は数百万円でしたね。ゴールデンヘッド(過背金龍の頭が金色の個体)の初期もかなり高価であった。

板近:どちらも高級感がすごいですね。

山口:もしもの話ですが、アジアアロワナが養殖して売られる魚ではなくて、野生の魚を捕って販売する魚のままであったら、今のような位置にいなかったかもしれない。

板近:アジアアロワナの持つ「高級」には、人が大きく関わっているわけですね。

山口:ファームの人やショップの人がその価値を高めていったと言えると思います。

板近:具体的な例は挙げられますか。

山口:たとえば、私が現地のファームで聞いた話では、ファームのオーナーがアジアアロワナのプロモーションとして、金の龍、赤の龍として、縁起の良い魚であると世間に紹介したそうなんです。これは主に中華系の方に向けてなんですが、これも価格や高級感につながる話ではないでしょうか。

ネオケラトドゥス

ネオケラトドゥス
ネオケラトドゥス Photo by N.Hashimoto

板近:私がお店で「高額で手が出ない!」と言う気持ちと、「すごい魚が来た!」という感動を同時に味わった魚というと、ネオケラトドゥスがありますね。

山口:ああ、ネオケラか。あれも2桁万円の魚ですよね。いろいろ思い出があるなぁ。

板近:思い出ですか! ネオケラファンとしてはぜひ聞かせていただきたく!

山口:わかりました。あの魚が初輸入されたのは、確か2000年代に入ってすぐくらいのことで。

ネオケラトドゥス
ネオケラトドゥス初輸入に関する記事(月刊アクアライフ2002年11月号)

板近:はい。

山口:オーストラリアは自然資源の取り扱いに厳重なことで有名で。

板近:オーストラリアが厳しいという話は、何度か聞いたことがありますね。

山口:それはもちろん生物の輸出なども対象で。だからこそ、ネオケラが輸入される日がくるだなんて思ってもいなかったんですね。ネオケラは、古代魚としてよく知られた魚であり、マニアには憧れの魚でもあったのだけれど、憧れのままで飼育できない魚だと思っていた。

板近:現地で養殖されて、許可された個体が輸入されたんですよね。

山口:はい。初輸入のときは、取り扱いの問屋さんから電話があったんですね。「記者会見を開くから来てください」と。

板近:記者会見ですか!

山口:ええ。現地のブリーダーさんの会見でした。そこに、複数の熱帯魚雑誌の記者たちが集まって。問屋さんもかなり気合が入っていたし、私たち取材陣も色めき立ちましたよ。

板近:それは……すごい話ですね。

山口:そういう輸入記念の会見は、熱帯魚だと他に経験していないかもしれない。

板近:あの輸入は、当時の私にもインパクトのある事柄でしたが、本当に大きなニュースであったのですね。

山口:会見まで開いたのは、異例であったと思いますよ。また、ネオケラは、今でも輸入される個体数に限りがあるから、高価であり続けていますよね。

板近:数年前にもアクアライフに、お腹がオレンジ色の個体の写真が載った(2017年2月3月号)じゃないですか。あれも衝撃でした。

山口:全身がオレンジ色の個体やまだら模様の個体までいろいろいるみたいなんですね。たしか現地の本で見た記憶がある。

板近:そんなにいろいろいるんですね。見てみたいなぁ。

山口:実は以前、そういうバラエティを雑誌に載せようとして準備していたことがあって。うろ覚えですが、多分そういう個体が現地の本に掲載されていた。

板近:バラエティを掲載……それはまだ、実現していない企画ですか?

山口:そうですね。

板近:ぜひ、実現してほしいです。

ディスカス

ディスカス Photo by N.Hashimoto

板近:高価な熱帯魚というと、ディスカスを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。熱帯魚の王様と言われる魚ですし。

山口:それはまた、タイムリーですね。というのも、このあいだ旧知の熱帯魚店店主とお話ししていて、昔にあったブームの頃と比べたらディスカス人気は落ち着いているけれど、「やっぱりディスカスは熱帯魚の王様だよね」と。そんな話で盛り上がったばかりで。

板近:そうでしたか!

山口:ディスカスは私が入社した頃(1996年)はすでにブームが落ち着いていたのかな。ブルーダイヤの輸入が1991年辺りでしたから。

ディスカス
ブルーダイヤ Photo by N.Hashimoto

板近:ブームはけっこう前になるんですね。

山口:もちろん入社した頃も人気はありましたが、月刊アクアライフでいうと、私の一つ上の世代の編集者が熱心に追いかけた魚かもしれない。

板近:山口さんの記憶に残っている、高価なディスカスはいますか。

山口:私の記憶に残っている範囲では、90年代後半くらい、たしか、2000年に入る前くらいだったかな? ふと立ち寄った大型熱帯魚店でグリーンディスカスのペアを100万円で売っていた。

板近:ワイルドですか。

山口:ええ、ワイルドでレッドスポットが密に入った美しいペアです。その頃にはブームが落ち着いていたとはいいましたが、それでもそうした価格の個体がいたんですね。

板近:さすがディスカスですね。

山口:ただ、高いだけでディスカスが熱帯魚の王様と言われるわけではないと思うんですよね。

板近:高級「感」もありますよね。

山口:ありますね。今は、東南アジアでの養殖魚もたくさん流通していて、求めやすい価格のディスカスも多いけれど、それでもやはり王様だと私は思いますよ。

板近:あの体型も本当に代えがたいものですよね。

山口:体型もあるし、泳ぎがエレガント。佇まいというか、存在感がとても上品であるし高貴な感じがする。

板近:ああ、エレガントですね。

山口:どうしてディスカスがそんなふうに見えるのか、私にはよく理由がわかりません。ただ、多くの人に共感してもらえる感覚であると思います。求めやすい価格の個体でも高級「感」がありますし。

板近:まるで「ディスカス心理」とでも言いたくなるような。

山口:白馬なんかと一緒なのかな? 馬の値段は全く知らないけれど、白馬を見ると上品で高貴だなぁと思うし。

板近:なるほどです。

山口:ディスカスは、飼育について振り返っても独特なものがありましたね。たとえばドライタワー。

板近:ああ、ろ過システムの。

山口:そうそう。縦に長いろ過槽にろ材を入れて、ろ過槽に水を満たさず、上からシャワーのようにろ材に水をあてていく。その水は重力によってろ材を伝って落ちていく……。そういう高級な機材も、ディスカス飼育では提唱された。他にもRO浄水器の使用もよく聞かれました。

板近:ディスカスというと、ベアタンクに産卵筒のイメージもありますね。私がベアタンクにどこか高級感を感じるのは、間違いなくディスカスのイメージだと思う。

ベアタンクディスカス
ベアタンクでのディスカス飼育例 Photo by T.Ishiwata

山口:あるかも。餌を食べるのが遅いし、ディスカスハンバーグなどの生の冷凍餌も使われることが多かったから、清潔に保ちやすいという意味でベアタンクが好まれたんだと思う。

板近:ディスカスハンバーグの存在からも、高級感を感じられますね。

山口:ですね。話は戻りますがRO浄水器。とても高価だけれど、使っていたディスカス愛好家は多かったんじゃないかな。浄水器で不純物をゼロに近くして、そこから添加剤で水を作る。水質にデリケートとされるディスカスならではの飼育スタイルだと思う。

板近:水質にこだわるイメージありますね。

山口:RO浄水器は必須ではないのですが、それくらいしたくなるほどの魅力がある魚なのだと思います。

エリザベサエにバルカ……グループの中の高級魚たち

山口:今まで挙げてきた高価な魚とは、また異なった価値観というか、異なった切り口で語れる高級魚もいて。

板近:どんな切り口でしょう。

山口:グループ内での高級魚ですね。何十万円もする魚ではなくても高級な魚がいる。たとえばカラシンというグループで見たときの、コペランディやエピカリスなど。養殖されたカラシンでは数百円の種が多い中で、頭ひとつ抜けた値段がつけられたりする。

コペランディ

上からコペランディ、エピカリス Photo by MPJ

板近:たしかにそれも高級の一つですね。

山口:まぁ、今例に挙げた魚は野生の魚なので、入荷状況などにより値段も変わりますから「大体○○円くらい」と示すことはなかなかできないのですが、なんにせよそのグループの中で突出して高級な存在という魚がいますよね。

板近:過去にコリドラスのスーパープルケールを飼育していて。そんな高価なコリドラスを飼うのは初めてであったので、緊張した覚えがあります。もちろん、安いコリドラスも大切にしていたので、扱い方的な差はなかったのですが。

スーパープルケール
スーパープルケール Photo by N.Hashimoto

山口:コリドラスにも突出して高級な存在がいますよね。今だとゼブリーナなど。あれは万単位の価格がついていると思いますが。

ゼブリーナ
コリドラス・“ゼブリーナ” Photo by N.Hashimoto

板近:知られたばかりの魚などは、高価になることが多いですよね。

山口:特にワイルドものの初入荷は高いですよね。アピストグラマのエリザベサエは、最初はペアで30万円くらいしたんじゃなかったかな。

エリザベサエ
アピストグラマ・エリザベサエ Photo by N.Hashimoto

板近:アピストの女王、エリザベサエ。

山口:はい。エリザべサエは面白いことに、いまでもアピスト界の高級種というイメージがありますよね。初輸入から随分と経ちましたが。

板近:高級なアピストと聞いてまず思い浮かぶかも。

山口:初めのインパクトが大きかったし、姿形もかっこいいから。あとは、スネークヘッドのバルカ。入荷した当初はアンフィべウスと呼ばれた魚で、あれも、エリザベサエの「アピストの女王」とかぶるイメージがある。なんというか「スネークヘッド界の王」という風格がある。実際にそんな原稿を書いた記憶もあります。

バルカ
チャンナ・“アンフィべウス” Photo by N.Hashimoto

板近:とても美しいスネークヘッドですよね。

山口:大型で背ビレも大きくて、色合いも抜群に綺麗。ショップの人にスネークヘッドの高級種を挙げてくださいとアンケートを取ったら、多くの人がバルカを挙げるんじゃないかな。今でも、入荷があれば高価な魚であるし。

板近:価格を知らなくとも、高級種であると聞いて納得できる姿をしていますよね。

山口:スネークヘッドといえば、昨今話題なのがエニグマチャンナですね。

板近:ゴラムスネークヘッド! あれは月刊アクアライフ(2020年6月号)で見た時、しびれましたね。

山口:近頃輸入されて100万円以上の値がついている。その価格はネットでも見られます。

板近:私はまだ「ゴラムが日本にいる」という事実に脳が追いついていない感がありますね。本当に今、同じ国にいるんだよなぁ……と。

山口:その他にも、「このグループならこの魚」というのはけっこういて。ポリプテルス・ビキールなども、ポリプテルスの王様という感じがするし。

ビキール
ポリプテルス・ビキール Photo by T.Ishiwata

板近:小型プレコにおける、インペリアルゼブラプレコとか。

インペリアルゼブラプレコ
インペリアルゼブラプレコ Photo by N.Hashimoto

山口:そうそう。あとは、プレコという枠をさらに狭くして「ロイヤルプレコの中ではあそこの産地がいい」などというパターンもありますね。アピストであればテフェ産のアガシジィは独特でマニアには人気があったり。

アガシジィテフェ産
アガシジィ、テフェ産 Photo by T.Ishiwata

値段と関係しない高級感

山口:ここまでの話は全て切り離して、つまりは、価格の話もグループの話も切り離して「どこか高級感を感じる魚」っていませんか?

板近:値段など、完全に無視してということですか。

山口:そうですね。完全に主観の世界なんだけれども。

板近:私は今その話を聞いて、ペルーグラステトラが思いつきました。あの透明感。

ペルーグラステトラ
ペルーグラステトラ Photo by T.Ishiwata

山口:わかる気がします。私なんかは同じ小型魚であると、ラスボラ・アクセルロッディを挙げたいな。値段は高くないけれど、あの輝きはちょっと神秘的ですらあって。高級と感じるかもしれない。

アクセルロディ
アクセルロディの名でも流通するスンダダニオ・“ネオンブルー” Photo by T.Ishiwata

板近:ああ、感じますね。あと、種ではないですがセミロングノーズのコリドラスを初めて見たときは「なんか違う」というところに、感じるものがありましたね。

セミロングノーズコリドラス
セミロングノーズタイプのコリドラス。ショートノーズと呼ばれる個体に比べると、口がやや突き出しているという特徴がある Photo by N.Hashimoto

山口:渋いところ突きますね(笑)。そんな感じで、値段と関係ない自分だけの高級な魚もいると思うんですよね。熱帯魚は種類が多いから、そういう魚を見つけられたらラッキー、嬉しいですよね。

板近:飼ってしばらくして発色したり。飼い込むことで増す高級感もありますよね。

山口:たとえば、アピストなどの小型シクリッドは自分で育てて初めて綺麗になる、花を咲かせるような楽しみがある。

板近:ありますね。

山口:そういう意味では、高級というよりも「思いが成就した達成感」の方が適切かもしれないけれど、それを「自分だけの高級感」と呼ぶのも、アクアリウムらしい感覚かもしれない。

板近:プライスレスなところでもありますよね。

山口:そうですね。ほんと、水槽の中の飼い込んだ魚の美しさというのはプライスレスであって。譲ってほしいと言われても「いや、無理」と即答できるような、愛着を感じるものです。

ベタに見る「時代とともに増した」高級感

ベタ
改良ベタ、トラディショナル Photo by N.Hashimoto

山口:高級というお題では、改良ベタにも思うところがあって。全体に相場がはっきりと上がっているんです。昔は改良品種のベタといえばトラディショナルばかりで、数百円の世界であった。

板近:たしかに、子どもの頃、特にアクアリウムを始めたばかりの頃は、トラディショナル以外を見る機会ってなかった記憶がありますね。

山口:専門ショップの人とも話すのですが、多分、2000年代の中頃までそういう安価なトラディショナルが主流であって。一部のコアな愛好家がフルムーンやハーフムーンの、いわゆるショーベタを育てていた。ただ、そうしたベタは、普通にショップで見られなかったんですね。

板近:私の記憶には「なんか最近、トラディショナル以外のベタを見かけるようになってきたなぁ」という時期があるんですね。逆を言えばそれは、それまでは全然見なかったということでもあり。

山口:最近ではショップにベタのひな壇が置かれていて数千円の魚が並んでいることも多く。つまりは、ベタという魚の価格のボリュームゾーンが、トラディショナルしか見なかった頃に比べると、ずいぶんと変わった。

板近:山口さんから見て、それはなぜだと思いますか。

山口:タイでの改良ベタの爆発的な進化があって、2000年代中頃からベタ全体のクオリティが上がった。これはまず大きな理由だと思います。

板近:バリエーションが増えたのも大きいですかね。

山口:そうですね。美しいベタが増えて、いいものには数千円払うという価値観が生まれた。そんなところではないでしょうか。

板近:ベタ飼育という文化そのもののあり方が変わったわけですね。

ベタ
鯉ベタ
現在、ベタのバリエーションはとても多い。たとえば「赤を含む多色」という枠の中でも写真のような様々な個体と出会うことができる Photo by N.Hashimoto

山口:平たくいえば流行っているからとも言えるけれど、流行った要因としてはっきりと魚の進化が挙げられるはずです。まあ、私の記憶がベースとはいえ、古くからの関係者さんともそんな話で盛り上がりますから、大きくハズレてはいないと思いますよ。

板近:今のベタの話は、山口さんよりもはるかにアクア歴が短い私でも感じた部分があります。

山口:ベタは熱帯魚全体で見ればずば抜けて高価な魚というわけではないけれど、長く続いたデフレの中では特筆すべき事象かなと。

高級な熱帯魚の共通点

板近:今日はいろいろな切り口から「高級な熱帯魚」を掘り下げていきましたが、それらに共通点のようなものはありますか。

山口:私が思うに、ストーリーだと思うんですね。物語、情報量とも言えるかもしれないけれど。

板近:大事ですよね! そこに喜びや感動がありますし。

山口:たとえば、エリザベサエやエピカリスは輸入される前からマニアにとっては垂涎であったし。ビキールやネオケラもそうですよね。記載論文などが先行して紹介され、入荷時に大きく盛り上がった。

板近:私は「高級」には文化や歴史が関係してくるのだなと思ったりもしたのですが、それはまさに今山口さんが説明されていることなのかもしれませんね。

山口:そういう類の話ですね。ゴラムスネークヘッドもその典型であると思うし。待望された末に登場した魚は高価になりやすい。前情報に限らず、魚にまつわるストーリーがあるとぐっと感情移入しやすくなるのではないでしょうか。

板近:今日の私もそうですね。たとえば私の憧れの魚であるネオケラは、今日、山口さんから「知らなかったストーリー」を聞かせてもらったことで、より感情移入できるようになったと思いますし。

山口:人の気持ちを高揚させる情報があってみなが渇望する。それで高級な魚が生まれる。そんなこともあるのではないでしょうかね。

これまでの「○○な熱帯魚シリーズ」一覧

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