みなさんこんにちは。
アクアライフWEB編集部です。
突然ですが…………憧れの熱帯魚はいますか?
本日のお題は憧れ。
編集部員それぞれの憧れを語るだけでなく、アクアリウムシーンにおける「憧れの歴史」なども振り返っていきます。
憧れの魚への思いでハートを熱くしながら、ご覧ください!
蓄積するストーリーを堪能する分野なのかもしれない。
水族館。ネオケラトドゥスの水槽の前に立つと、時の流れが止まります。
アクアの雑談 アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、株式会社エムピージェー出版部長で月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部に社外からの協力スタッフとして参加している板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。 |
憧れの熱帯魚を語る
山口:本日のお題は「憧れ」なんてどうでしょう。
板近:憧れですか!
山口:前回の「高価、高級な熱帯魚」というお題で話している時に「ああ、憧れという要素もあるな」と思ったんですね。
板近:まさに、前回登場したネオケラトドゥスは私の憧れの存在ですね。
山口:そうそう、まさにそういう話で。
板近:前回は、私の知らないネオケラストーリーを聞けてかなりテンションあがりましたよ。
山口:板近さんも喜んでくれたことですし、今回も「熱帯魚の逸話」なんかを交えつつ話せたらなと思っていますよ。
板近:すごく楽しみです!
過去の“憧れたち”を振り返る
山口:憧れも、一口では語れないお題ですよね。いろいろな切り口がある。
板近:まずは、何から話しましょうか?
山口:まずは「みなが憧れていた魚」という話はどうでしょう。過去に憧れとして語られた魚たち。個人単位ではなくて、ある程度多くの人に共有されていた憧れともいえますかね。
板近:じっと集中して聞きたいテーマです。
山口:板近さんも喋って下さいね(笑)。
板近:(笑)
山口:ではでは……まず私が入社する前、月刊アクアライフの編集部に入る前ですね。その時代の月刊アクアライフはけっこう、憧れで記事を組んでいたんですね。「こういう魚が入荷して欲しい」という記事を。もちろん今でもそういう記事はありますが、今に比べると多かった印象がある。
板近:山口さんが月刊アクアライフ編集部に入ったのは1996年ですね。
山口:はい。なのでそれ以前の話になります。当時、そういう記事が多かったのは、なぜだかわかりますか?
板近:今ほどいろいろな魚が日本に来ていなかったから……とかですかね?
山口:そのとおりです。当時は、まだ海外だけでしか流通していない魚、または海外の出版物でしか掲載されていない魚が多かったという背景があったと思うんです。
板近:今のようなネット環境もないですもんね。
山口:情報収集の仕方も全く違いましたね。SNSでの共有もないので、なんというか、今の時代の憧れとはまた様相が異なっている。
板近:たとえば、例などありますか。
山口:メルグスのアトラス、これは熱帯魚の写真がたくさん載ったとても分厚い本で。あの頃は、そういう「マニアなら目を通している」という洋書がいくつかありまして。
板近:洋書に載った魚に、みなが思いを馳せていた。
山口:たとえば有名なところではバルブス・ヤエ。これはエムピージェーの先代の社長の石津さんや、私の先輩であるTAGさんが月刊アクアライフの誌面で「憧れの魚であった」と何度か紹介しています。
板近:綺麗な魚ですよね。
山口:そのバルブス・ヤエは、洋書先行の典型期なパターンと言えると思います。
板近:洋書でしか見られなかった魚だったのですね。
山口:似たような系統であると、バタフライバルブもそうですね。これも洋書では知られた存在であったけれど、入荷がなかった。
板近:なぜ、なかったのでしょう?
山口:バルブス・ヤエやバタフライバルブは共にアフリカの魚なのですが、地理的にも遠く、政治的にも複雑な地域が多く「欲しいから送って」という段取りがスムーズにいかなかったと聞きましたね。今でもそういう面があるといいますから。
板近:いろいろな事情があるのですね。
山口:その他、この雑談でもよく出てくるアピストグラマのエリザベサエも、洋書先行の魚でしたね。
板近:洋書先行は本当に多かったのですね。
山口:多かったですね。多くの憧れが洋書から生まれたのではないかな。
板近:多くの……ということは、洋書先行以外のパターンもあるわけですね。
山口:はい。たとえば、国内で独自に盛り上がる魚もいます。ポリプテルス・ビキール、ネオケラトドゥスなどもそうした例だと思いますが。
板近:具体的に言うと、どのような感じでしょう。
山口:まさに、日本のマニアが盛り上がった魚という感じです。今から20〜30年くらい前までは、お話したとおり洋書先行の時代といえますが、大型魚は日本国内のほうが強かったと思います。だから「大型魚の憧れ」が洋書で先に紹介されることは、少なかったんじゃないかな。
板近:なるほどです。
山口:別の言い方をすると、大型魚飼育はアジア圏で好まれる趣味だと思うんです。洋書の元となるヨーロッパなどでは、水槽飼育に対する考えが違うので。良い、悪いじゃなくて文化が違うんです。
板近:その違いから、飼育される魚の種類が変わってきたりするわけですね。
山口:はい。ちょっと話が複雑になってきたので、ここで一度まとめると、昔はわりとみなが同じ情報源、つまりは同じ洋書を読んでいて。そこに載っていて、なおかつ日本で流通していない魚が憧れの魚となったパターンが一つ。
板近:はい。
山口:対して大型魚は、洋書先行ではなく、国内独自の盛り上がりがあって。その憧れが熟成された末に入荷を果たした種もいる。
板近:どちらものちに魚自体は入荷があったけれど、憧れが生まれた背景が違うと。
山口:逆に共通点を挙げるならば、どちらも「魚がいないところで情報が蓄積していった魚」ということですよね。かたや洋書、かたや国内という違いはあれど。
板近:魚がいない状態で事前に盛り上がりがあり、当然、初入荷も盛り上がった。
山口:そういうことです。そのほか「いきなり発見されたすごい魚」というパターンもありますが、そちらは、事前の憧れの醸造がないから、また違った盛り上がり方をしますよね。
板近:具体的にはどんな魚がありますか?
山口:魚種で言うと、インペリアルゼブラプレコやスカーレットジェムあたり。
板近:たしかに、同じ「衝撃の入荷」でも蓄積があるのとないのでは感覚が違いますよね。
山口:ええ。まさに感覚的な話なので、説明するのが難しいところなのですが(笑)。
板近:(笑)
山口:また、インペリアルゼブラプレコやスカーレットジェムはあれだけの魚ですから、いきなりの発見でも、ものすごく盛り上がったんですよね。
板近:そこにも、憧れが生まれていますよね。
山口:そうですね、まあ、発見されたり、入荷されたりしても、すぐに全国のショップに並ぶわけでもないから。タイムラグが憧れを醸造する、そんなこともあると思います。
憧れを届ける側として
板近:山口さんは、アクアリウム雑誌の編集者として長く活動されてきて……つまりは、憧れを届ける側の人としての時間も長く過ごされてきたわけですよね。
山口:たしかにそうかもしれませんね。
板近:ここからは、そうした話を聞いてもよいですか?
山口:はい。おっしゃるとおり、私も編集者として憧れを作っていかなければという思いがありました。たとえば「セニョール・コバのIntroduction of Unknown Fish!」という連載。
板近:コリドラス大図鑑を執筆された方ですね。
山口:そうです。「セニョール・コバのIntroduction of Unknown Fish!」は、平たく言えば入荷のない魚を紹介するコーナーなんですね。その名の通り、セニョール・コバ(小林圭介)さんの執筆で、毎月一種類ずつ紹介していく。
板近:私もその連載が掲載されているアクアライフを持っていますが、たしかに憧れが刺激される連載だと思います。
山口:セニョール・コバさんは海外の資料をたくさんお持ちで、それ以外にも折々の論文などにも目を通していて。
板近:そうした中からセレクトした魚を紹介。
山口:ええ。実際に、この連載で紹介をした後に入荷した魚もけっこういました。
板近:何種か挙げてもらえますか。
山口:たとえば、ベトナムアカヒレ、毛フグ、ポリプテルス・トゥジェルシーなど。スネークヘッドのアンフィベウス(のちのバルカ)もこの連載発だと思う。
板近:そうそうたるメンバーですね。
山口:エポックメーカーですよね、セニョール氏は。まあ、そんなこんなで、多分、この連載を見て業者さんが動いたのだと思います。「この魚は人気が出そうだから、輸入できるかどうかチャレンジしてみよう」という具合に。
板近:記事と業者さんの力が合わさり、その魚が日本へ。
山口:セニョール・コバさんの連載によって、多くの読者さんが憧れを抱いたのではないか、そんなふうに思いますよ。
板近:まさに、専門的な知識のある方だからこそ、発信できた憧れですね。
山口:実際にセニョール・コバさんは現地に行って魚を採っていたりもしていて、そういったレポートをいただいたりもしました。コリドラス他ナマズがお好きで。
板近:さすがコリドラス大図鑑の方! あの図鑑には、かなりお世話になっております。
山口:ものすごく行動力があって、ビキールの初入荷の際も、現地に飛んだ一人です。私も一緒にカンボジアに行ったことがありますよ。
私の憧れ
山口:今まではみなが共有できる憧れについて話してきましたが、もっと細かく見ると個人個人での憧れがあると思うんですよね。
板近:ありますねー。
山口:板近さんなんて、けっこうお話あるんじゃないですか?
板近:完全な私の趣味の話になってしまうと思いますが(笑)。
山口:どうぞどうぞ。
板近:私の大好きなスパイニーイールがまさに、憧れの成長を体験した魚で。
山口:それはぜひ、お聞かせいただきたいですね。
板近:はい! 私が初めて飼育したのはインドグリーンスパイニーイールなのですが、憧れというより自分の中へグーッと入ってきた魚なのですね。とにかく、飼育しだしてからの引き込まれ方がすごかった。
山口:憧れがあって飼育を始めた種とはまた違うのですね。
板近:そうですね。出会いを振り返ると「憧れた」よりも「惹かれた」という言葉が似合う感じです。
山口:その後に、憧れへと変わる流れがあったんですね。
板近:はい。インドグリーンスパイニーイールがあまりにも素敵なので、他の種類のスパイニーイールもどんどんと気になっていき……。
山口:うんうん。
板近:「ああ、アフリカにもいるのか」とアフリカ産への思いもどんどん募っていき……。そうした流れの中で、憧れが育っていったと思うんです。どこで憧れに変わったかまでは、明確には語れないのですが、アフリカ産の存在は大きなきっかけの一つであったように思います。
山口:また、アフリカ産はレアで、入荷も少ないですから。
板近:そうなんです! 今は縁あってアフリカ産のスパイニーイールを飼育することができていますが、水槽に入った瞬間はまさに「憧れが我が家に……!」と、冷静ではいられませんでしたね。
山口:それは嬉しいでしょうね。
板近:毎日幸せですね。最初は一匹でしたが、あまりに素晴らしすぎて、後日追加でお迎えしました。次、いつ同じ種類のスパイニーイールに出会えるかわからないので「複数飼育した時の姿を見たいなら今しかない!」と。
山口:熱いですね。そんなアフリカ産を手にした今も、憧れのスパイニーイールはいますか。
板近:憧れのスパイニーイール、いろいろいますね……。たとえば、これもアフリカですが、ブラインドケーブスパイニーイールはいつか生で見てみたいと思いながら、よく写真や動画を見ています。中国のスパイニーイールもまだ出会えていないし……と、このくらいにしておきますね(笑)。
山口:(笑)。今の板近さんの話のように、好きな魚を軸に憧れが広がっていくということはありますよね。インドグリーンスパイニーイールからはじまり「アフリカ産もいるんだ!」というように。
板近:熱帯魚あるあるかもしれませんね。
山口:のめり込んだからこその憧れですよね。そもそも興味がないと、憧れは生まれませんから。
板近:たしかに。
山口:他に何か、憧れエピソードはありますか。
板近:つい最近の話ですが、駆け上がるように憧れが急上昇した魚がいましたね。
山口:それはまた気になりますね。どんな魚でしょう。
板近:アフリカンイールキャットです。
山口:……また渋いですね。でも、いかにも板近さんが好きそうな魚でもある。
板近:生で見たときは、ハートが痺れましたね。それから購入するまで、そう長い時間はかからなかったのですが、あの待ち時間は間違いなく憧れでしたね。
山口:それも理解できます。しかし、なかなか「憧れ」と「欲しい」の境目は難しい気がしますね。私も、単に欲しい魚もいるし、憧れである魚もいるし。
板近:惹かれると憧れるも違いますし。
山口:欲しい魚は、多分、いろいろ条件をクリアしているのではないかなと思うんです。入荷とか値段とか水槽の大きさとかクリアした上で「飼おうかな」と考えている。
板近:欲しい気持ちがあっても、条件的に手が出せない魚もいますからね。
山口:そういう、条件が足りず飼育ができない、もしくはなかなか出会えない時に思いが募り、憧れになるんですかね。
板近:私のアフリカンスパイニーイールも、条件が揃わず悩んでいる期間がありましたね。調べたり、お店の方に相談に乗ってもらったり。
山口:そうやって自分が飼育できる条件を揃えていったわけですね。
板近:はい。続く、アフリカンイールキャットも知識不足などの理由で、即「飼うぞ!」とはなれず、同じく、お店の方に相談するなどしていました。そうした「悩んだ時間」が、より憧れを育てたのかもしれません。
山口:すんなり飼えるときは憧れるというより、板近さんの言う「惹かれる」のほうが近いのでしょうね。
板近:そうですね。そういえば、熱帯魚の飼育を始める前や始めたばかりの頃は、全ての熱帯魚に対して憧れのような感情がありましたね。それは、その頃の私にまだ知識や技術が少なく、多くの熱帯魚に対して条件がそろっていなかったからかもしれない。
山口:飼育経験のない人、熱帯魚をよく知らない人からすれば、ネオンテトラもUnknownなわけですもんね。
憧れを残しておきたい気持ち
板近:山口さんは、今も憧れている魚というのはいますか。
山口:アジアアロワナが憧れかもしれない。ずっと欲しいと思っているし。
板近:それはよくお話されていますね。
山口:金銭的な面はなんとなかるかな……というタイミングはあるんです。ただ、お金が貯まるとまた別のものが欲しくなったり(笑)。
板近:(笑)
山口:そんな具合で、なんだかんだと一歩及ばずで、憧れになっている感がありますね。
板近:いつか叶うといいですね。
山口:それもそうなのですが、反面、アジアアロワナは私にとって憧れのままでおいておきたいと思うこともあり。
板近:あえて飼育することなく。
山口:そういう気持ちも大切だなと。成就してしまったら、もしかしたら風船が萎んでしまうような気持ちになるんではないかと。
板近:なるほどです。
山口:板近さんにもそういう魚、いるんじゃないですか。飼育するという段階まで届かず、憧れの中にとどまりそうな魚が。もちろん、いつか飼いたいという気持ち込みになるかとは思いますが。
板近:であると、今日話したネオケラトドゥス。あとはジムナーカス、バガリウス・ヤレリ、オキシドラス……。大きく、大きく育てたい。
山口:それらの魚が、憧れのままであると思う理由はなんでしょう。
板近:いくつか理由はありますが、特に「憧れのまま」に直結する理由は、床の強度ですね。憧れを実現しようとすると、うちの今の床の強度では厳しいんです。
山口:たしかに、床の強度となるとなかなか具体的に動くのは難しいですよね。
板近:だからこそなおさら「いつか飼いたいなぁ」と憧れるのでしょうね。
山口:そうだと思います。
板近:しかし、こうして掘り下げると、憧れというのはとてもよい感情ですね。山口さんの言う通り、持ち続けたい感情で。
山口:ええ。本当によい感情だと思います。
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