みなさんこんにちは。

アクアライフWEB編集部です。

本日は熱帯魚における「珍しい」という要素に迫ってみようと思います!

 

面白い生態をもつ変わり種、レア種……いろいろな熱帯魚が登場しますのでどうぞご覧ください。

あなたの中の「珍」はどんな存在ですか?

山口 正吾山口 正吾

一口に珍しい魚といってもいろいろあるもんだと話しながら確認しました。

板近 代板近 代

自宅の水槽で珍魚が日常になっている。それは本当に、すごいことですね。

アクアの雑談

アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部の板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。

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珍しい熱帯魚とは

山口:このアクアの雑談も回を重ね、いろいろなことをお話してきましたね。

板近:そうですね。

山口:改めて振り返ってみたのですが「熱帯魚といえば!」という要素が抜けていた感も否めず。今回はそこをねちっこく攻めていきたいなと。

板近:「熱帯魚といえば!」ですか。

山口:ええ。早速お話しすると「珍」という概念ですね。

板近:そこですね。

山口:はい。板近さんは、熱帯魚、アクアリウムにおいて「珍」を意識したことはありますか?

板近:感覚的な話なのですが、たとえば「珍魚」という言葉には、魅惑的な響きがあるなぁと思います。知られざる生態! とか、そんなイメージです。

山口:なんかロマンがありますよね。

板近:ええ。これは、単純に希少価値が高いという意味だけではなく、独特の姿をしていたり、面白い習性があったりなども含めての、幅広い意味で。

山口:そこなんですよね。板近さんが今お話ししてくれたように「珍」にはいろいろな意味合いが含まれていて。

板近:思い返すならば、コリドラスを初めて見たときも「珍魚」を感じたと思います。とてもメジャーな魚ですけれど、当時の私にはすごく珍しい形と行動に映った。

山口:なるほど。たとえば有名どころだと、トランスルーセントグラスキャットは「透明という姿形」が珍しいですよね。

トランスルーセントグラスキャット
トランスルーセントグラスキャット。複数匹で飼育すると並んで泳ぎ、「珍」な風景を作り出してくれる Photo by N.Hashimoto

板近:ええ。トランスルーセントを知ってからだいぶ経った後に、ペルーグラステトラを見た時「透明過ぎるテトラという特性」に感動したりと、自分の中の「珍」が進化するときもありますよね。

山口:……まずはゆっくりと「珍」を紐解いていきましょうか。ちょっと板近さん前のめりすぎです(笑)。

板近:すいません、つい盛り上がってしまいました(笑)。

山口:それで、トランスルーセントグラスキャットはそういう姿形が珍しいわけで、アクアリウムの世界での流通量が少ないわけではない。むしろ人気が高く流通量が多い魚の一つです。

板近:ええ。でも、あの魚を初めて見た時は、なかなかの「珍」ですよね。

山口:同じことはブラインドケーブカラシンにも言えて。眼がないという姿形が珍しいわけで流通が少ないわけではない。

板近:そうですね。

山口:かたや、奇妙な姿に見えなくても「珍」とつくものがありますよね。

板近:珍カラ(珍しいカラシンのこと)とかですね。

ナノストムス・エスペイ
珍カラと聞いて思い浮かべる人も多いであろう、ナノストムス・エスペイ。現在は不定期ながら流通量が増えている Photo by T.ishiwata

山口:そうそう! まさにそれをお話しようと。珍カラは「珍」とつくけれどこちらは数の話で、姿形が珍しいわけではない。いわゆるレア種ですよね。

板近:はい。

山口:珍しいというお題でお話しようと思った時には、まずはここを整理せねばならん! と思ったわけです。珍しいという言葉には全く異なる要素が含まれていると。

板近:たしかにそこを分けたほうが、話がスムーズですよね。

山口:ですから今日は数が少なくて珍しい魚は「レア種」、生態や姿形が珍しい魚を「変わり種」と、分けて話を進めていきましょう。

変わり種な熱帯魚たち

板近:まずは、どちらから話していきましょうか。

山口:変わり種からいきますか。板近さんはどんなところが思い浮かびますか。魚種として。

板近:早速悩み始めてしまったのですが……候補がいろいろ出てきて(笑)。

山口:そんなに難しく考えなくていいですよ(笑)。

板近:では……この雑談シリーズでよく名前を出させてもらうスパイニーイールなんか変わっていますよね。あとバンジョーキャットとか、アクアライフ3月号でも紹介されていたハラ・ジェルドニーなんかも、なかなか変わり種ではないですか?

山口:やはりスパイニィですか(笑)。来ると思っていました。

板近:ここは入れておかないとなと思いまして(笑)。

山口:相当変わっていますよね。鼻がひくひく動いたりして。

板近:ええ、動くんですよね。全体を見るのもいいけど、顔をドアップで見るのもすごくいい。

山口:バンジョーも動かないという点では面白いし、ハラもそうですね。

板近:ええ。面白いです。

山口:姿形の変わり種もありますが、生態がクローズアップされるのもありますよね。たとえばアナバスなんかは「陸を歩く!」などとセンセーショナルな見出しがついたりして。でも、見た目はさほど変わっているわけではない。

アナバス
陸を歩く魚として知られるアナバス。写真の個体は色の淡い色彩変異個体 Photo by T.ishiwata

板近:ラビリンス器官とか初めて知った時テンション上がったなぁ……。

山口:ええ。そういう意味では、肺魚も変わっているかも。「空気呼吸ができる!」みたいな。

板近:肺魚は名前からして、変わり種感出てますよね。

山口:出てますね。

板近:昨年の月刊アクアライフで紹介された、地下に棲むスネークヘッドもすごかったですよね。

山口:あれもすごいですね、アエニグマチャンナ・ゴラムか。ただ、ここで取り扱うと混乱してしまうかもしれない。そもそもまだ流通してないから数の方(レア種)にも掛かってしまうから(笑)。

板近:「珍しくて珍しい魚」ですね。

山口:ええ、ダブルです。今話している珍しい魚、つまり「変わり種」は水族館的な魚と言えるかもしれないですね。姿形が変わっているのは素直に面白いし、たとえば「陸を歩く」という解説があればグッと興味を引く。

板近:実際に水族館に肺魚いたりしますもんね。

山口:アナバスは小さくて地味なのであまり水族館向きではないかもしれないですが……。

板近:でもそういう地味な魚のコーナーって、意外と熱い時ありますよね。一部の人にとってではあると思いますが……それも「珍」の一つの形かもしれない。

山口:ええ、本当にいろいろな「珍」がありますね。ほかにも水鉄砲を使うアーチャーフィッシュ、これも変わり種に入れてもいいでしょうし。

板近:アーチャーフィッシュは「変わった生態」をもつ魚として、有名な存在かもしれませんね。

山口:生態と姿形の珍さ、これを一緒くたに「変わり種」として扱うのも苦しさはありますが、この要素は結構リンクしているんですよね。

板近:といいますと。

山口:変わった生態が変わった姿形によって成り立っている例も多いじゃないですか。理由があって変わった形をしているという。

ドンキーフェイス・エレファントノーズ
ドンキーフェイス・エレファントノーズ。この特異な見た目は彼らの生態と深く関係している Photo by N.Hashimoto

板近:いますね。さっき例にだしたバンジョーキャットも、飼育してみるとあの不思議な見た目が砂に潜るという生態にすごく適した形であることがわかります。

山口:タニノボリの仲間も面白いですよね。ホンコンプレコなどの類ですね。

クロコダイルバタフライプレコ
渓流に適した体を持つタニノボリの仲間、クロコダイルバタフライプレコ。プレコと名についてはいるが、いわゆる「南米ナマズのプレコ」とは別グループの魚である Photo by N.Hashimoto

板近:独特のフォルムですよね。

山口:あれなんかは本当に環境に適した形であって、渓流という環境に。

板近:生息環境を想像すると、なんて理にかなってるんだ! と感動しますよね。

山口:そうそう。冒頭に挙げたブラインドケーブカラシンもそうかな。見る必要がないから眼がなくなった、それを人が見ると「変わった姿」だと思う。

板近:またあの体色も、変わり種な雰囲気がありますよね。いかにも洞窟で暮らす魚という感じがあって。

山口:実際にブラインドケーブカラシンが泳いでいる姿を見ると、人とは違う感覚で「見ている」んだなと感動したりしますよね。

板近:しますね。あと、リーフフィッシュなんかも、見た目と生態がセットですよね。

リーフフィッシュ
擬態のプロ、リーフフィッシュ Photo by N.Hashimoto

山口:コノハカマキリみたいに周囲に溶け込んでしまう。そういう特性をもった魚が流通する事自体、価値があると思うんですよね。

板近:本当にすごいことですよね。水槽内でそれを見れてしまうのですから。

レアな魚たち

山口:そろそろもう一つの「珍」である「レア」に注目してみましょうか。これにもいろいろなパターンがありますよね。

板近:今現在レア、昔はレアだった、昔はレアじゃなかった……などなどありますよね。

山口:はい。たとえばですけど新着魚は今まで来ていなかったものだから、新着の時点では数が少ない。特にワイルドものは少数のみの入荷が多いですよね。

板近:新着はそういうこと多いです。

山口:補足すると同じ新着でも改良品種の場合は数を揃えて発表されることもあったりと、ちょっと異なりますが。

板近:はい。改良品種のレアとワイルドのレアで、ちょっと違う感覚がある時もありますよね。

山口:そうですね。それで、ワイルドの方の新着魚は、新着の時点では珍しいけれどその後普及種になる可能性もあるわけです。例えば、この前お話ししたエリスロミクロンなどもそうです。人気が出れば「レア」ではなくなる。

板近:人気も上がり入手性もよくなったと。

山口:はい。それとは別にずっとレアな魚もいて。珍カラにもそういうのがいますが。

板近:なかなか次の入荷がない魚っていますよね。

山口:はい。時折流通するけれど普及種になるほどではない、そういう微妙なラインを保つ魚もいますね。そこが愛好家にとっても熱を上げるところで「今買わないと次はいつかわからない!」と購入意欲を掻き立てる(笑)。

板近:あー…………。

山口:なにかありましたか?

板近:もうだいぶ前の話になるのですが、お店で「いいなぁ、どうしよっかなぁ」と悩んでいたことがあるんです。以前から興味を持っていた種類がまとめて入荷してまして。

山口:はいはい。

板近:それで、一回クールダウンするために外に出たんですね。

山口:クールダウン(笑)。

板近:で「やっぱりほしくてたまらない!」となって、戻ってきたら…………一匹残らず売り切れていて。

山口:どれだけクールダウンしていたんですか。何日も?

板近:いや、そんなに長くなかったはずですよ。その日のうちに戻りましたし。

山口:じゃあまさにすんでの差か。悔しかったでしょうねそれは。

板近:ええ。その時に「今しか出会えないってあるんだなぁ」というのを、痛感しました。

山口:一期一会と。

板近:一期一会ですね。あと「この個体がいい!」ってなったときはもうだめですよね。「同じ種類の魚はいても君は一匹しかいない!」なんてなった時は、相当厳しい状態ですよ。

山口:そういう一目惚れもあるかもしれない。

板近:一目惚れを我慢するのはかなり厳しいです。だいたい、笑顔で連れて帰ってしまいますね(笑)。

山口:(笑)。ところでそういう流通の少ない種類が、現地でも少ないのかと言えば必ずしもそうではないと思うんですよね。

板近:それは私も思いますね。

山口:たとえば数はいるけど採集が難しかったり、または輸送が難しかったりして結果として流通が少ないこともあるでしょうし。

板近:あとは需要があまりないからとか。

山口:そうそう需要の問題も大きい。たくさん採れたとしても、売れないものをたくさん流通させる理由もないし。

板近:たまにマイナーな種類がどばっといたりすると、嬉しくなっちゃいますよね。

山口:ええ。昔、あるショップでリシオダスというマイナーなカラシンが水槽にゴッチャリ入ってたんですよ。

リシオダス
リシオダス。現物を見たことがないという人も多いのではないだろうか Photo by MPJ

板近:リシオダスがごっちゃり! それはすごい。

山口:「なんという光景だ!」と嬉しくなってお持ち帰りしました。

板近:似たような経験あります(笑)。

ワイルドの色彩変異

山口:ほかに珍しいに関して言えば色彩変異などもありますよね。

板近:色彩変異が固定されていて普及種となっているものもありますが、たとえば、ワイルドの色彩変異は少ないですよね。

山口:ええ。少ないが故に尊ばれる。新着コーナーでも取り上げられやすいですよ、そういう魚は。

板近:たしかに、AquaFeature(月刊アクアライフ 今月の新着・注目魚、水草コーナー)には、プラチナやアルビノ、透明鱗など様々な変異個体が登場しています。

山口:ともあれ、「ポリプテルス◯◯のアルビノ! しかもワイルド個体!」などと聞けばテンションは上がりますよ。まあ、ここら辺は白蛇とか弁天ナマズの例もあるし、特に白い変異は尊ばれるのかもしれない。神々しさもあるし。

板近:ええ、弁天ナマズは弁財天のお使いと言われているのですよね。

山口:弁天ナマズは黄色かな。ともあれ色素減退で輝いて見えるから、なんだか拝みたくなるような風格がある。

アルビノ肺魚
言葉にできないオーラを放つ肺魚(プロトプテルス・ドロイ)のワイルド・アルビノ個体 Photo by N.Hashimoto

板近:そうですね。ニュースなどでも取り上げられていますよね。水族館で特別展示されていたり。

山口:ええ。以前ゴリラのアルビノを見た時は、本当に驚きましたよ。

板近:アルビノといえば品種改良の定番でもあるじゃないですか。もちろん、改良でも珍しい場合はありますが、たとえば、白コリやエンゼルのアルビノは、アクアリストにとってとても身近な存在です。

山口:そうですね。改良のアルビノは綺麗ですけれど、普及種といえるほど増やされていると今回のお題の「珍」とは少し違う扱いになりそうです。

板近:ええ。改良品種の「珍」を語る場合は、また違った視点が必要かもしれませんね。

珍しさが教えてくた、尊さ

山口:本日いろいろお話してきて、どこか「珍」ということに、尊さを感じませんでしたか。

板近:はい、感じました。生命の不思議に触れる尊さというか。

山口:「珍しい」と「尊い」って近いのかなと、熱帯魚はエキゾチックアニマル(フィッシュ)としての需要もあるじゃないですか。

板近:はい。

山口:そのエキゾチックは「珍しい≒尊い」という感覚を含んでいて、それが多くの人を魅了するんだと思うんですね。

板近:熱帯魚に限らず異国のものに憧れる、そういうことはありますよね。

山口:「すごい魚と暮らしているんだ」ということで、ハレの気分になったり。

板近:たしかに高揚するものはあります。

サカサナマズ
サカサナマズ。その名の通り、逆さになって泳ぐ姿は心を揺さぶる Photo by N.Hashimoto

山口:こういう珍しいものを尊ぶ気持ちって、最近あまり印象がよくないところがあると思うんですね。自然保護もあるし「ドヤッ」という行為自体がちょっとスマートではないという印象を与えるかもしれないと。

板近:それはたしかに、あると思います。

山口:そんな昨今ですけれど私はそういう感覚は大切にしたいと思っていて。

板近:はい。

山口:自然保護を蔑ろにしない、もちろん法には触れないようにする。そのうえで「珍=ハレの気分」をもっと肯定してもいいんじゃないかと思うんですよね。

板近:なるほどです。

山口:そんなことを思ったのは父親の影響でして。

板近:お父さんですか。

山口:まだ私が高校生の頃かな。父親がピラニアを買ってきて玄関の水槽で飼育していたんです。

板近:はい。

山口:それで家に来る私の友達にドヤっていたんですよね。「指を入れたら食いちぎられるぞ!」とか言って(笑)。

板近:もし私がそうやって友達の家でピラニアを見せてもらったとしたら、嬉しかったと思います。

山口:父親も好きなんだろうけれど、子供らを喜ばせようというサービス精神も感じたり。

板近:水槽の前で盛り上がる。いいですね。

山口:なんだか今回も私ばかり喋ってしまいましたが、板近さんはどうでしょう。

板近:そうですね、私は「珍」ということに対して、自分の想像以上にいろいろな感情が動いているんだなと思いました。ただ、一番はやはり、感動なのだと思います。

山口:たしかに、純粋な感動がありますよね。

板近:ええ。あと、珍しさに心躍ることもありますが、「惹かれた魚がたまたま珍しい魚だった」ということもあるなぁ……とも、思いましたね。

山口:「これは珍しい」と考えるよりも、その魚に惹かれるのが先であったということですね。

板近:はい。他にも、「珍しい魚だなぁ」とは思っていたけど、いざ調べてみたら想像以上に情報がなかったり。

山口:はいはい。

板近:数を増やしたいと思った時に、全然見つからなくて苦労したり。

山口:そのパターンはあるかもしれません。

板近:そんな振り返りもあり、改めて「魚の魅力って計り知れないなぁ」と思いましたね。珍しさも、魚がもつ魅力のうちの一つなのだなって。

山口:そうですね、魚にはいろいろな魅力があります。

板近:過去にこの雑談では「初心者向けの熱帯魚」や「綺麗な熱帯魚」に注目して、そこでもいろいろな魅力に気がつきましたし。

山口:ええ。

板近:そして今日は「珍」というお題からいろいろ気がつくことがあった。こういう体験も、魚が教えてくれる尊さなのかもしれませんね。

山口:そうかもしれませんね。これからもこの雑談でいろいろな魅力を掘り下げていきたいですね。

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GIGAS vol.4
雑誌:GIGAS vol.04

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