当記事「初心者向けの熱帯魚」は前後編に分けてお送りしております。【前編】はこちらからご覧ください!

初心者向けの熱帯魚選び 後編!(8~10種類め)

前回のあらすじ

「初心者におすすめの熱帯魚とは?」というお題で開始した、今回の雑談。なかなか難しいこのお題に、まずは「おすすめの熱帯魚を10種類挙げて、そこから考えてみよう」という話になり……。(前編では7種類めまで発表)

板近:残り3種ですね。では、オトシンクルスはどうでしょうか。

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オトシンクルス。コケ対策として飼育されることも多い魚の魅力とは……? Photo by N.Hashimoto

山口:ああ、私も迷いました。でも、主役的ではないというか……ぜひ、板近さんのお話をお聞かせください。

板近:はい。初心者さんが悩むポイントといえば水槽のコケ、その対策を考えると、候補に上がってくると思ったというのがまず一つ。

山口:たしかにコケにはオトシンですね。

板近:茶ゴケに強いですよね、ほんと。

山口:……今回は「初めての方に初めての魚」というお題だと思うんです。オトシンの場合、「何か魚を飼う→コケが出る→オトシンの出番」という流れですから、ちょっと違うかなという思いもあり……。

板近:すいません、私は初心者さんの範囲をもう少し広めに見ていました。飼育を始めてしばらくして、「初めての茶ゴケ」と出会った時のイメージで。それでもいいですか?

山口:どうぞ進めてください。板近さんのプレゼンをお聞きしてからの判断としましょうか(笑)。

板近:ありがとうございます(笑)。まず、オトシンの水合わせは慎重に行なうべきとか、導入は注意すべきと言われていますよね。

山口:ええ。

板近:そうした注意点は確かにあると思いますが、環境になじんでしまえば結構丈夫でもあると思うんです。

山口:はい。

板近:それと、さっきもお話したとおり、初心者さんが困らされがちな茶ゴケに強い。オトシンが壁面などを綺麗にしてくれることで、水槽全体の観賞価値が上がる。

山口:なるほど。

板近:と、ここまでがオトシンの脇役的というか縁の下の力持ち的なプレゼンなのですが……。

山口:オトシン自体のよさも聞きたいですね。つまり、茶ゴケがなくても飼いたくなるような!

板近:はい! まず張り付くこと。実に面白いです。

山口:板近さんは張り付く魚も好きですよね。

板近:好きですね(笑)。それと、なんかじっと佇んで「何考えてるんだろう」なんていうシーンもある。

山口:たしかに。

板近:かと思えば、餌を入れた時に……たとえばうちだと、沈んだ餌に集まってくるんですよ。その姿がまたよくて。

山口:ありますね。小さいですし、可愛い魚ではあります。

板近:そんな感じでオトシンには、意外と動きや行動のバリエーションがあるんですね。

山口:そうですね。

板近:ただ、それは飼育してみたからこその感想だと思うんです。よく知らない人からすれば「コケを食べる地味な魚」みたいな印象かもしれない。

山口:それも否定できず……。

板近:でも、長いこと見ていると、こう、気がついてくるというか。じっくりじわじわくるよさというものを、教えてくれる魚でもあると思うんですね。さっき話した行動の面白さとか、独特のポーズを見せてくれたりとか。

山口:なるほど、そういうのに引き込まれるわけですね。

板近:ええ。複数匹で飼育して、ふと見ると集合していたりするのもいいですよね。

山口:しかもコケに強いと。

板近:はい。コケに強いし面白いし、素晴らしいですね。

山口:ここまでの話を振り返れば、結局好きな魚のプレゼンになっている気もしますね。お互いに(笑)。

板近:そこは否定できないですね(笑)。では、山口さんお願いします。これで最後ですかね?

山口:ええ。ちょっと待って下さい。最後なので考えます。いや、今までもちゃんと考えてはいますけれど。

板近:私も今のうちに考えておきます。今回、本当に悩みますよね。

山口:…………。

板近:…………。

山口:…………。

板近:…………。

山口:うん、決めた。ドレープフィンバルブなんていかがでしょうか。

ドレープフィンバルブ
ドレープフィンバルブ。広げた背びれの美しさに目を奪われる Photo by N.Hashimoto

板近:ドレープフィンバルブですか!

山口:コイの仲間にエントリーがなかったので、挙げてみました。

板近:実は私もコイの仲間を狙っていたのですが(笑)。

山口:(笑)。飴色がかった体色は清楚で嫌味がなく万人受けしそうですし、大人しそうに見えて……まあ、実際に大人しいのですが、フィンスプレッディングが情熱的で。

板近:あの大きな背ビレはすごいですよね。

山口:「魚を飼っている」という充実感みたいなものを味わうことができる、そんな魚だと思うんです。インドの魚で、初入荷の時期はスカーレットジェムあたりと近いのですが、あの時のインド便はワクワクした思い出もあって。1999年頃の話ですね。

板近:実はこの魚、私はまだ飼育したことがなく、なおかつ「いいなぁ」という心のリストに入っている魚でもあるので、ちょっとテンション高いです今。

山口:新着からほどなく、私も飼ってみたのですが「これは後世に残る魚だ」と直感しました。そして、20年以上経った現在も実際に流通がある。そんなことで感慨深いものもあります。なんにせよ、目もブルーできれいだし観賞魚としても一級ですから。

板近:ええ。めちゃくちゃいいですよね。

山口:お勧めしたいなぁ、基本、水草も食べないし。

板近:飼っちゃおうかなぁ。

山口:ミイラ取りがミイラに。

板近:この雑談シリーズは、飼いたい熱が高まりやすくて危険です。

山口:飼った方がいいですよ、安価ですし。

板近:山口さん熱推しであると。

山口:私もしばらく飼っていないので、また飼いたいですね。では、板近さん。本日最後のおすすめの魚、お願いします。

板近:はい! では、私もコイの仲間から。ダニオ・“ハナビ”(ミクロラスボラ・ハナビ)はどうでしょう。

ミクロラスボラハナビ
ダニオ・“ハナビ”。その「小さな美しさ」はぜひ実寸大で見てもらいたい Photo by N.Hashimoto

山口:うーん、芸人風に言えば「あり寄りのあり」ですね、ハナビは。

板近:(笑)

山口:そこも外せないと思っていましたが……さて、どうぞ、おすすめのポイントを。

板近:はい。このブログのハナビの記事の内容と重複してしまうのですが、熱推しポイントは群れです。小型魚は群れることが多いですが、なんていうかハナビはその中でもいい感じに群れてくれるというか。

山口:これはミャンマー産の新着魚が熱い時期に入荷した魚で。当時が思い出されるなぁ。

板近:もう少し詳しくお聞かせいただけると! 初めて聞く読者さんもいると思いますので。

山口:ええ、先ほどのドレープフィンバルブ初入荷の話と一緒で、ハナビやエリスロミクロン、インレキプリウス、ミャンマーチョコグラなどのミャンマー産の新着魚が相次いで入荷した時期があったんです。1997〜98年頃になるのかな。とくにハナビとエリスロミクロンはびっくりしましたね。

板近:ハナビを初めて生で見た時は感動したなぁ。それと「デリケートなのかなぁ」なんて思いもしました。小さいじゃないですか。小型魚としても。

山口:たしかにだいぶ小さいですよね。

板近:でもいざ飼ってみると普通に飼育できるし、小さい口で餌も上手に食べるし、そんな難しいこともないんだなぁなんて。

山口:意外と飼いやすいですよね。ああ見えて。

板近:ええ。それで隠れられるような場所が多い水槽で飼育していると、いい感じに隠れ家から現れたり、隠れ家に消えていったりするんですよね。あれがおもしろくて。すごく感覚的な話で申し訳ないのですが。

山口:わかりますよ。泳ぎ方がなんというか無機質ではなくて、きちんと意思があるというか。

板近:はい! その動きが群れで行なわれるのもよくて。また、小さいながらもしっかり飼い込むと体がガチッとしてくるじゃないですか。

山口:そういう変化も楽しいですね。

板近:そうですね。そういう“飼育したからこそわかる”という要素は、本当に素晴らしいものだと思います。

おすすめ熱帯魚10選を振り返って

山口:さて、初心者さんにおすすめの熱帯魚10選が終わったわけですが。板近さん、何か印象に残ったことはありますか?

板近:そうですね。「ネオンテトラとカージナル」であったり「コイの仲間」であったり、完全一致ではないもののお互いの考えがかすることが多かったのが印象的でしたね。

山口:組み立て方が似ていたのでしょうね。お互い、グループごとに挙げていこうという意識があったんだと思います。逆にそういう意識がないと、半分近くはテトラの仲間になりそうだし。

板近:たしかに。「初心者さんにおすすめのテトラ」と限定しても、雑談できますよね。

山口:そうですね。流通量を考えると、初心者さんへのおすすめにテトラが上がる確率は高いと思います。実際に飼いやすい魚は多いし。ネオンテトラ、ブラックファントム、ブラックネオン、ハセマニア、レッドテトラなんかは本当によくショップで見かけます。

板近:今回は私も山口さんも、意識的にいろいろなグループから紹介するようにして、それが成立した。これは「様々なグループの中に初心者さんにおすすめできる魚がいた」という証明にもなりますよね。

山口:そういう考え方もできそうですね。

板近:山口さんは振り返ってみて、なにかありましたか。

山口:私が気づいたことに、私の選出は愛嬌がポイントだったのかもしれないと思ったんですね。綺麗なだけじゃない、ちょっと隙がある、かまってあげたくなる、手を差し伸べたくなる、そんなイメージを持つ魚たち。

板近:言われてみると、そうかもしれません。

山口:どうですか、板近さんはご自身の選出した魚を振り返って。

板近:私はやはり「自分好み」を大切にしてほしいなという思いがあったように思います。振り返ってみると、それぞれ特徴的である部分がわかりやすい魚を選んでいるのかなと。

山口:魚の持つ特徴が自身の好みとフィットする魚を選んでほしいということでしょうか。

板近:ええ。選んでほしいというか「いろんな魚がいるので、きっと好きな魚が見つかりますよ!」みたいなニュアンスのほうが近いかもしれません。だから本音を言うと、もっといろんな魚を挙げたかったですね。

山口:初めのうちはうだうだと考えていましたが、いざ選んでみれば関連して色々な魚が浮かび上がってきます。10選であると数が足りないですよね。

板近:それと、初心者さん向けの選考であるということから、壁にぶつかった時に解決しやすい魚という点を意識していました。

山口:情報が入手しやすいとか、丈夫であるとか。

板近:ええ。インドグリーンスパイニーイールを選出しちゃってるんで「情報が入手しやすい魚を揃えました!」と大声では言えないのですが(笑)。少なくとも、丈夫ではあるということでご勘弁を。

山口:(笑)。多少、体調を崩しても体力のある魚だと改善策を調べる時間があったりする。そういう魚であると初心者さんにおすすめしやすくなるかもしれません。

板近:そうですね。

飼いたい魚を飼えばいい?

山口:私は板近さんの選出を見て「ビビッと来た魚を選んでほしい」というようなメッセージ……といえば大げさですが、そういう意思を感じましたね。

板近:ありがとうございます。

山口:冒頭にも述べたように、昔はたしかに飼育難種という枠はありました。それは流通量と必ずしもリンクせずに、わりとポピュラーな魚でも難しいものがあった。

板近:チョコグラあたりが思い浮かびますね。

山口:そうですね。また、外産グッピーもひと頃はわりと難しいと言われていました。もちろん今でも難しいと言われる魚はありますが、全般に流通する魚は飼いやすくなっていると思います。

板近:そういう種類が増えたのは、事実なのでしょうね。アクアリウムそのものも始めやすくなったように思います。

山口:例えば昔のビギナー本では、「シルバーアロワナは大きくなるので注意してほしい」みたいな書き方もありましたよね。

板近:ありましたね。

山口:でも今は「大きくなるのでこれくらいの水槽を用意してください」と具体的な条件が書かれることも多くなったと感じます。

板近:情緒ではなくてデータですね。

山口:そういうことです。それで、水槽の大きさと飼育の難易度、これは分けて考えることもできる。水槽さえ用意できれば初心者でも飼えると捉えてもいいわけです。その他いろいろ注意すべき点(シルバーアロワナであれば飛び出しなど)はあるにせよ。

板近:たしかに。

山口:何がきっかけかは忘れましたが、私自身、ある時期から「情緒的に飼育を制限するような記述はなるべく避けたい」という意識を持つようになって。説教くさいのはやめようと(笑)。

板近:なるほどです。

山口:そんなこともあって、初心者にとって飼いやすい魚はいる、それは間違いないけれど、飼いたい魚を飼えばいいのでは? という考えが、今のところの私の中では優勢なんです。

板近:「飼いたい魚を飼えばいい」という言葉は、今日なんども喉まで出かかっていた言葉でした。

山口:本日の選考を聞いて、板近さんは意識せずにそれができているのだな、そんな風に思って感心しましたよ。スパイニーイールをさらっと挙げた時に(笑)。

板近:ありがとうございます(笑)。私が「飼いたい魚を飼えばいい」となかなか言い切れなかったのは、「これは初心者さんには難しいかもしれない」というような場面が、自分の経験の中にあったからかもしれません。

山口:ええ。

板近:でもその反面、山口さんの言う通り昔に比べて飼いやすくもなっているし、わからないことを調べたり聞ける環境もできあがっている。

山口:飼いやすい魚や扱いやすいサイズの水槽で始める。そうしてステップを踏んで学んでいくのはたしかに正しいと思います。

板近:失敗はしにくいですよね。

山口:だから、どちらがいいというわけでもないのだけれど、魚を大切にする気持ちがあればいきなり気に入った魚から始めてもよいのではないかと。

板近:そういう意味でも「飼いたい魚を飼えばいい」というのは、とても重要な考え方かもしれませんね。飼いたいと思う気持ちの中に、魚を大切に思う気持ちを。

山口:もちろん、そこには予算が絡んできますから。予算の中で好きな魚を飼うといいんじゃないでしょうかね。魚自体は安くても大掛かりな設備が必要な魚もいますし。

板近:ええ。実際にかかる費用を計算してみることで、見えてくるものもあると思います。あと、図鑑なんかも、魚選びのいい参考資料になりますよね。たとえば、アクアライフの800種図鑑号は新しいし、魚の大きさなどもわかるから便利だと思います。

山口:調べることもこの趣味の楽しさですし、ぜひ活用していただければ。

板近:そうですね。調べることで飼いやすい魚を増やすこともできる。そして、飼いやすい魚のことももっと深く知ることができる。そういうのって、楽しいですよねほんと。

アクアの雑談