みなさんこんにちは。

アクアライフWEB編集部です。

 

突然ですが「学名」を意識したことはありますか?

たとえば、ネオンテトラの学名は「Paracheirodon innesi」ですが、これを見て「読み方もよくわからないし、なんだか難しそう」と感じる人も多いのではないでしょうか。

 

でも実はこの学名というもの、ちょっと理解するだけでアクアリウムがより楽しめてしまうものだったりするんですよ!

山口 正吾山口 正吾

難しく考えずに使える場面で使えばよいんではないかと。

板近 代板近 代

妙にクセになる響きの学名ってありますよね。

アクアの雑談

アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、株式会社エムピージェー出版部長で月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部に社外からの協力スタッフとして参加している板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。

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今日のお題は、学名!

板近:今日のお題なのですが、学名なんてどうでしょうか。

山口:学名ですか。渋いところをつきますね。

板近:アクアリストにとって意外と身近であるけれど、よくわからないという人も多いのではないかなと。

山口:うーん、たしかに。まあ、知らなくてもいいんだけれど、知っているとよりアクアリウムを楽しめはします。

板近:情報収集にも役立ったりするんですよね。

山口:ええ。また、生物の趣味であると学名は避けて通れない場面があるやもしれず。

板近:魚が学名で販売されていたり。

山口:そうそう。図鑑などでも学名を見かけることはあるだろうし、板近さんの言う通りけっこう身近にあるものです。

学名
学名が掲載されている図鑑の例(月刊アクアライフ2022年1月号より)

学名の構造を“ざっくり”覚えよう!

板近:まずは、学名の構造からですかね。

山口:そうですね。今日は学名慣れしていない人に向けて「ざっくり」としたところをお話しましょうか。

板近:はい!

山口:私は学者でもないですし先生でもないですから、言葉足らずなところもあろうかと思いますが。

板近:山口さんでもそうなってしまうのですね。

山口:学名についての解説で本があるくらいですからね。この場でいっぺんの曇りもなく説明するのは私には到底無理(笑)。

板近:なるほどです。

山口:まあ、このブログをきっかけに学名について詳しく知りたくなった方は、そうした本を手に取ってご覧ください。

板近:ぜひ!

山口:というわけで。今日はアクアリウムを楽しむ上で押さえたいポイントについてお話しできれば。アクアリスト向けの実用というか。

板近:そうですね!

山口:ではでは…………学名はまず、属名と種名の二つで成り立っていますよね。ただ、ここだけ聞いてもピンと来ない方も多いかと思います。

板近:ここは、例を挙げて解説していくのがいいですかね。

山口:ああ、それはいいかも。たとえばベタ・マクロストマという魚がいますよね。学名ではBetta macrostomaと書きますが。

ベタ・マクロストマ
ベタ・マクロストマ Photo by N.Hashimoto

板近:ベタが属名で、マクロストマが種名ですね。

山口:ええ。この学名からはベタという属があって、その属にはマクロストマという種がいますよ、ということがわかります。二名法と呼ばれるやつですね。属は種の一つ上の階層で。

板近:ベタ・マクロストマは一種類しかいないけど、ベタ・○○は他にもいるんですよね。

山口:はい。これは、私が昔読んだ本に書かれていたことなのですが、住所のような感じで捉えるとわかりやすいですよね。

板近:ああ、たしかにそうかも。

山口:住所は「東京都 千代田区 永田町 一丁目 7番 1号(国会議事堂の住所)」というように、広いところからだんだん絞り込まれていく。生物の分類も目、科、属、種という感じでだんだん絞り込んでいくことができる。

板近:ベタ・マクロストマは、その中の属と種について記された部分ということですよね。属の上には科があり、目があると。

山口:そういうことです。それで、学名は一種につき一つで、重複したりしないように運用されているから、学名を見ればそれがどんな種か特定できるわけですね。たとえば、ベタ・コッキーナはベタ・マクロストマとは学名が違うから違う魚であるということがわかる。

板近:「ベタ」は属名だから重複するけど、種名である「マクロストマ」や「コッキーナ」は重複しない。

山口:そうそう。ベタ・○○はたくさんいるけれど、ベタ・マクロストマもベタ・コッキーナもベタ・ルブラも一種類しかいません。

コッキーナ

ベタ・ルブラ
上からベタ・コッキーナ、ベタ・ルブラ Photo by N.Hashimoto

板近:ベタ・○○については、ワイルドベタの扉をあけての一覧も見てもらうと面白いかもですね。

山口:いろいろなベタ・○○の名前が載っていますからね。

学名は英語ではなくラテン語

板近:学名って、読み方に悩むことがありますよね。

山口:ええ。学名はラテン語ですからね。

板近:先程例に挙げたBetta macrostomaもラテン語で、これが学名としての正しい表記ということですね。

山口:そういうことです。

板近:英語のようにも見えるけど、英語ではない。だからこそ、余計に読み方に迷うのかもしれません。

山口:今の時代、ラテン語は死語とされているから。発音、読み方も迷っちゃいますよね。

板近:ああ、死語なんですね。

山口:ただまあ、英語を日常的に使う人のほうが、日本語を日常的に使う我々よりも馴染みはいいんじゃないかな。

板近:なるほどです。

山口:たとえば、学名ではpseudo(プセウド)という言葉がありますが、これは英語にもありますよね。疑似などという意味で、和名ではモドキに相当するのかな。

板近:魚の学名だと、プセウドラグビア(Pseudolaguvia)にも入っている言葉ですね。

山口:プセウドはいろいろな魚の学名に使われていますね。それで学名の発音の話に戻りますが、ラテン語の辞書を読んだところによるとローマ字式でいいみたいですよ。まあ、中にはローマ字にない表記もありますが……。さっきのプセウドのpも母音がないですし。

板近:puseudoじゃないから、読みづらさはあるかもしれないですね。

山口:ともあれ、ローマ字を習った人が直感的に読んでも大きく外さないと思います。

板近:そうそう、学名は世界共通なんですよね。

山口:はい。世界中の人が理解できるものですね。対して、地域やある特定のコミュニティだけで通用する名前というのもあり。

板近:和名(日本での名前)みたいな。

山口:そうですね。たとえば、和名であるサンマをSANNMAと書き直しても海外の人はどんな魚かわからない可能性が高い。

板近:地域限定だから。

山口:でもサンマの学名であるCololabis sairaと書けば、どんな種類かちゃんとわかる。世界共通というのはそういうことです。

sp.にご注意!?

板近:学名は一種につき一つという話をしましたが「sp.」には注意しないといけないですよね。

山口:注意というのも大袈裟だけれど(笑)。

板近:(笑)

山口:sp.は種という意味である「species」を省略したもので、属名の後につきますね。読みはエスピー。

板近:はい。種名と同じ位置に入るから、混乱しやすいかなと。

山口:たしかに、sp.とつく魚は一種類ではないですからね。たとえば、アピストグラマ sp.は何種類もいる。

アピストグラマ
アピストグラマ
上からアピストグラマ・“ジュルアエメラルド”、アピストグラマ・“レッドブレスト”。どちらもApistogramma sp.である Photo by T.Ishiwata

板近:これは、sp.が「種名ではない」ものだからですよね。

山口:ええ。sp.は種名ではなく「〇〇属の一種」という意味ですからね。たとえばアピストグラマ属の一種であることはわかっていて、「種類まではよくわからんなぁ」なんていう魚にsp.があてられる。

板近:その「よくわからんなぁ」という魚が同じ属に複数存在すれば、必然的に「同じ属名+sp.」という魚、つまり同じ表記をする魚が増える。

山口:そこにこだわりますね(笑)。

板近:(笑)

山口:たしかによくわからない魚、未記載種であろうという魚が、同じ属に複数いれば、sp.ばかりで混乱するかもしれない。

板近:ですよね。

山口:そういうときの混乱を避けるために、便宜的にナンバーをあてたりしますよね。コリドラスやアピストでもあるけれど、有名なのはプレコのLナンバーかな。

板近:プレコも種類が多いですもんね。

山口:これは、学名がつけられているプレコにも、sp.とされているプレコにもつけられるナンバーで。流通するプレコの種類を見分けるのに使われる。

板近:プレコのようにたくさんの種類があるグループには便利ですよね。

Hypancistrus sp.

Hypancistrus zebra
上からHypancistrus sp.(Lナンバー:L333 流通名:キングロイヤルペコルティア)、Hypancistrus zebra(Lナンバー:L046 流通名:インペリアルゼブラプレコ) Photo by N.Hashimoto

山口:まあ、ナンバーはプレコやアピストグラマ、コリドラスなどの一部のグループにしかなくて。それらは熱心な愛好家がいて、学名がよくわからない種類でもきちんと認識する必要性が高かったんだと思う。

板近:そういう背景があるんですね。

山口:それで、ナンバーがない魚のほうが大多数で、それらは普通、流通名で識別することが多いですよね。識別というのも大げさかもしれないけど。

板近:流通名はそのまま、魚が流通するときにつけられている名前ですね。

山口:そうですね。たとえば、ネオンテトラはParacheirodon innesiという学名ですが、ほとんどの場所でネオンテトラという名で売られている。こうしたものを流通名だと捉えてもらえれば。

ネオンテトラ
ネオンテトラ Photo by N.Hashimoto

板近:sp.の魚にも流通名がついていることがあるんですよね。

山口:スカーレットジェムは例としてよいかもしれない。あの魚は、入荷当時はsp.であったけれど、スカーレットジェムという流通名が初めからつけられていたから、アクアリストはその名で認識していたし、sp.だからと困らなかった。

板近:そうした流通名があれば、情報を伝えることなどもやりやすくなりますね。

山口:ほかに有名どころだと、インペリアルゼブラプレコやオレンジフィンカイザープレコなんかも入荷当時はsp.でしたね。でも、流通名が当初からあった。

スカーレットジェムインペリアルゼブラプレコ

オレンジフィンカイザー
上からスカーレットジェム、インペリアルゼブラプレコ、オレンジフィンカイザー Photo by N.Hashimoto

板近:インペリアルゼブラプレコにオレンジフィンカイザープレコ、どちらもとても認知度の高い流通名ですよね。

山口:学名がついてない魚であったとしても、アクアリストは、ナンバーや流通名などの「そうだと認識できる名前」があればそれでいいという面もある、という話で。

板近:補足ですが、学名がそのまま流通名になっているときもありますよね。

山口:ええ。先に挙げたベタ・マクロストマなどは、学名Betta macrostomaを読んだそのままの名で流通していますよね。流通名を掘り下げていくと、それはそれで長くなってしまうのでとりあえず今日は「流通名には色々あって、中には学名由来のものもある」と覚えておくといいと思います。

板近:はい! 話をsp.に戻しますが、sp.と書いてあると「何者なんだ!?」とワクワクしたりしますよね。

山口:唐突ですね(笑)。私は若い頃はなんだかよくわからないまま「きっとアクアリウムフィッシュとしてすごい魚につく記号なんだ」と思っていましたよ(笑)。

板近:わかりますその気持ち。

山口:sp.をスペシャル(special)の略と勘違いしている人もいるという話を聞いたこともあり。ともあれ、sp.には「なんだかすごい感」がありますよね。

板近:sp.はスペシャルという話は、私の好きな話の一つですね! あと、sp.だけど、ナンバーも流通名もついていない魚もいますよね。ただ「○○sp.」と表記されているだけの魚。あの情報の少なさがまた、ワクワクするんですよね。

山口:そういう魚には、産地が添えられていたりすることもありますよね。例えばハイフェソブリコンsp.シングーとか。

板近:その場合は、シングー川からきたハイフェソブリコン属の一種ということがわかりますもんね。

学名は変わることもある

板近:学名は変わることもありますよね。

山口:分類が見直されたという例ですね。この話はちょっとディープだけど、有名な魚でも意外と学名が変わっていたりしますからね。

板近:何か例など挙げていただけますか。

山口:たとえばラスボラ・エスペイ。

ラスボラ・エスペイ
“ラスボラ”・エスペイ(手前の魚) Photo by N.Hashimoto

板近:とても有名ですね!

山口:ええ。この魚は以前はラスボラ属だったけど、今ではトリゴノスティグマという属になっていて。だから今は学名も、トリゴノスティグマ・エスペイとなっているのですけれど。

板近:属名が変わったんですね。

山口:本来的にはトリゴノスティグマ・エスペイとするべきなんだろうけれど、未だにラスボラ・エスペイという名前で流通していますよね。まあ、お店によってはトリゴノスティグマ〜と表記していますが。

板近:アクアリウムの世界では学名がそのまま流通名になっていることも多いから、エスペイのように旧学名が流通名としても残る場合もありますよね。

山口:伝わりやすい名前としてラスボラ・エスペイが残っているんですよね。お店で売る際などに、トリゴノスティグマ・エスペイと書いてしまうとわからない人も多いだろうから。

板近:そういうふうに、名前が変わっても古い名前の価値が残っているというのはなんだか素敵ですよね。

山口:素敵……なのかな?(笑)。

板近:(笑)

山口:でもまあ、そういうことを知ったときには「ああ、俺もいっぱしだな」と思ったり、そういう満足感はあるかもしれませんね。

学名を覚えてアクアリウムをより楽しく!

板近:こうやって話していくと、学名というのも面白いものですね。

山口:ええ。学名には意味や由来があったりもするから、そういうところを調べても面白いと思いますよ。

板近:ですねぇ。

山口:たとえば本日例に挙げたマクロストマは「大きな口」という意味になるし、メラノガスターは「黒い腹」になる。見た目以外では、その魚に深く関わった人の名前や分布に由来する場合など、いろいろありますから。

リミアメラノガスター
黒い腹を意味する学名を持つリミア・メラノガスター(Limia melanogaster) Photo by MPJ

板近:まずは、好きな魚の学名から見てみるというのもよいですよね。

山口:そういった遊び方をするにはラテン語の辞書があると捗ります。私も好きで……まあ、理解度はさておき、時折り開いていますよ。

板近:ラテン語の辞書はよさそうですね!

山口:学名がアクアリウムという趣味にマストで必要かと問われたら「どうかなぁ」とも思いますが、知っておけば知らないよりは深く楽しめるとは思います。

板近:アクアライフ編集部として多くの学名に触れてきた山口さんが言うと、説得力がありますね。

山口:どうだろう(笑)。でも、記事を作っていると悩んでしまうこともあるんですよね。

板近:学名にですか。

山口:はい。アクアライフは昔から魚には学名をつけて掲載していて……たとえば、ベタ・マクロストマにはBetta macrostomaと添えてきたんですね。

板近:たしかに、月刊アクアライフでは、学名がありとあらゆるところに書かれていますね。

学名
連載「一種類徹底飼育講座」にも学名が添えられている(月刊アクアライフ2022年6月号より)

山口:そんな作業をしている中で「あれ、この魚の学名、実は違うんでは?」みたいなことに気がつくこともある。すると、そこから調べなくてはいけないから、短い文章を書くにもかなり時間がかかったりして(笑)。

板近:(笑)。私は山口さんに比べると学名を書く機会はずっと少ないですが、学名をキーボードで手打ちする時は間違いがないか不安になりますね。

山口:やたらと難しい綴りの学名もありますからね。

板近:ありますあります。呪文みたいで、覚えられると嬉しくて何回も口に出してしまったり。

レッドテールキャット
よく知られた魚であるレッドテールキャットの学名はPhractocephalus hemioliopterusと、なかなかに難しい綴りである Photo by N.Hashimoto

山口:たとえばある新聞では、学名と紹介されているものがカタカナ表記であった例を見たこともありますね。カタカナ表記は学名ではないけれど、時と場合によってはカタカナ表記をしたほうが伝わりやすいときもあるだろうし。カタカナ表記は学名じゃない! と目くじらを立てるほどのことでもないかなぁと。

板近:新聞は縦書きが多いからというのもありますかね。

山口:そうですね。たとえば横書きでも、今日の私と板近さんの会話を文字に起こして記事にする際は、全て本来の学名(ラテン語)で書くのではなく、カタカナ表記にしたほうが読みやすいところもあるかもしれません。

板近:ああ、カタカナだとすんなり読めるから。

山口:そうそう。今日の解説は学名の入り口的なところでもあるから、そのくらい気楽に読んでもらえればと思います。実際、WEB記事などでも学名や属名なんかはカタカナで書かれていることも多いですし。

板近:カタカナ、ラテン語双方で検索することでより幅広い情報を得られることもありますよね。

山口:ええ。アクアリスト的には両方押さえておくと良いと思いますよ。

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