みなさんこんにちは。
アクアライフWEB編集部です。
本日の主役は「名前」です。
名前に注目することで見えてくる、アクアリウムの面白さ。
どうぞご覧ください!
ややこしいかな? と思ったことをお話ししました
名前を鑑賞する。名前と鑑賞する。そんな楽しみ方もいいですね。
アクアの雑談 アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部の板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。 |
品種って何?
板近:さて、本日のお題は何にしましょうか。
山口:今回の月刊アクアライフはシュリンプ特集(2021年3月号)ですので、そこに関連した話ができたらなと思います。
板近:少し前に発売した号ですね。
山口:そうですね。それで、私はアクアライフとは別に、シュリンプクラブという雑誌を担当してきたんですね。
エムピージェーの「エビ飼育情報誌 シュリンプクラブ」の記事一覧です。エムピージェーは「月刊アクアライフ」をはじめとした生き物に関わる情報誌を発行している出版社です。熱帯魚、水草、海水魚、川魚といった水辺の生き物、爬虫類や両生類、小動物などの情報をお届けしています。その他、全国の水族館へ楽しいお土産を企画・卸販売しております。
板近:その名の通り、シュリンプ専門誌ですよね。
山口:はい。年1回、都合9号まで発刊しています。
板近:立ち上げから最新号まで、ずっと山口さんが担当されていたのですか。
山口:そうですね。それで、取材をしていて「これは難しいのではないか?」と思ったことがありまして。
板近:難しい、ですか。
山口:板近さんは「品種」はご存知ですか。
板近:はい。たとえばグッピーで言うところの、ドイツイエロータキシード、ブルーグラス。こうしたものが品種ですよね。
山口:そうですね。端的に言うと、人の手によって改良された集団で特徴が固定化されている……みたいなのが品種です。詳しくは生物学辞典などを見てほしいのですが。
板近:品種改良という言葉もありますよね。
山口:ええ。だから品種という言葉は、原種には使わないんですね。
板近:たとえばワイルドグッピー(原種グッピー)にもいろいろなタイプがいますが、それらを分けるのに品種という言葉は使いませんよね。
山口:はい。金魚やお米を思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれない。お米では「コシヒカリ」や「あきたこまち」が品種。金魚では「琉金」や「出目金」が品種。
板近:「お米」や「金魚」の中に品種があるということですね。
山口:はい。金魚やお米は品種を認定する団体があったりするので、わかりやすいです。ですがそこまでの規模ではない生物であると、公的な品種の認定がないこともある。またはあったとしても、なかなか認知が広まらないこともある。
板近:はい。
山口:それに現在進行形で改良が進んでいたりすると、どこで切っていいかわからず品種としての認識がしにくい……ということもある。
板近:目の前で変わっていくようなスピード感がある場合には、難しそうですね。
山口:それでも、たとえばシュリンプには、レッドチェリーシュリンプやレッドビーシュリンプなど、かなり特徴がはっきりとしていて品種と呼んで差し支えない集団もあって。
板近:レッドチェリーシュリンプはわかりやすい例ですね。多くの人がその名前を聞いて、同じような姿を思い浮かべやすいというか。
山口:ディスカスでもそうですよね、たくさんの表現がある中で、ブルーダイヤやレッドロイヤルブルーなどの品種と呼べる集団が生まれた。
板近:たしかにディスカスの改良品種にも、そうした特徴的な品種があります。
ファンシータイガーシュリンプに続く、ブランド名
山口:最近人気のシュリンプに、ファンシータイガーシュリンプがありますが、これはファンシータイガーシュリンプがおよそ品種にあたる名称であって。
板近:およそ品種にあたる名称ですか。
山口:歯にものが挟まったような物言いですみません。なんせ、新しめのシュリンプですし、個体ごとの変異も大きいので、ファンシータイガーシュリンプを品種と言い切るのも、どうかと思いまして。
板近:なるほどです。
山口:まあ、そこら辺を厳密にするとややこしいので、今回はファンシータイガーシュリンプを品種として話を進めますね。
板近:承知いたしました(笑)。
山口:それで、ファンシータイガーシュリンプ はレッドビーシュリンプとタイガーシュリンプの交配をベースにした品種とされているのですが。
板近:特徴はどんなところにありますか?
山口:特徴としては……言葉では表現しにくい模様をしているのですが。
板近:(笑)。言葉にしにくい模様ってありますよね。
山口:写真を見てもらうとわかりやすいのですが……。個体差もありますが、大柄な模様で、他のハイブリッドシュリンプと比べるとレッドビーシュリンプにわりと近い発色をしていて。
板近:とてもきれいな赤白ですよね。
山口:そうなんです! そこが特徴かもしれない。いわゆるハイブリッドと呼ばれるシュリンプは「黒×白」がベースであることが多いのですが、このファンシータイガーシュリンプは「赤×白」が先行して登場した。そういう点でも珍しく、まあ、とにかく人気があるんです。
板近:たしかに「黒×白」が多いハイブリッドシュリンプにあって、この「赤×白」は目を引きます。
山口:それで、このファンシータイガーシュリンプとまとめられるシュリンプたちには、いくつかの別の名前があるんです。作出したブリーダーなどがつけた、ブランド名、もしくはハウスネームともいうべき名前ですね。
板近:そのあたりの話が、本日最初に「これは難しいのではないか?」と言っていたことですかね。
山口:はい。ファンシータイガーシュリンプ には、たとえば有名どころでは太極(タイヂ)、レガリア、SARASAタイガーという複数のブランドがあって。
板近:そうした複数の名前がある状態が「難しいのではないか?」と。
山口:そういうことです。つまりは、ファンシータイガーシュリンプ という品種ではなくて、太極、レガリア、SARASAタイガーというブランドを先に知ったとすると、ちょっとそのシュリンプ の成り立ちがイメージしづらいのかもしれないと。
板近:品種とブランドの関係がわかりにくいということですか。
山口:そうです。……うん、これはお米に例えるとわかりやすいかもしれない。たとえば「コシヒカリ」と「南魚沼産のコシヒカリ」であれば、「ファンシータイガーシュリンプがコシヒカリ」で「レガリア他のブランドシュリンプが南魚沼産のコシヒカリ」という関係にあると。
板近:なるほどです。コシヒカリは品種で、南魚沼産のコシヒカリはそのブランド。そういう関係が、初めての方にはわかりにくいかもしれないと。
名前から得られる情報を楽しむ
山口:一つお断りとして、本日はブランド名、ハウスネームが悪いという話をしているのではありません。
板近:そこは大切かもです。
山口:特にのめり込んでいる人にはとても大切な情報であって、同じファンシータイガーシュリンプでも、ブランドなどによって特徴が異なるとされているし、そうした差異にこだわるのがこの趣味の面白いところじゃないですか。
板近:ええ。実際にファンシータイガーシュリンプにこだわっている人、その人物像を想像すれば「ファンシータイガーシュリンプである」という事は頭に入った上での、さらに深いところの話でしょうから、特に問題はなさそうですね。
山口:そうなんです。品種という括りで飽き足らない人がさらに深いところを求めるわけで。
板近:わかります。ブランド名、それ自体に意味があるということですよね。ただこれから始める人にとっては、ちょっと混乱しやすいかなぁという話で。
山口:私は雑誌の編集者なので、読者層をわりと広くイメージする習慣があるのかもしれない。だから、そういうことを整理してお伝えした方が、よりスムーズにこの趣味に入れるのではないかと。シュリンプ に限らず、いつもそんなことを考えているんです。
板近:たしかに雑誌を見てもちんぷんかんぷんであると、その世界に入りづらいかもしれませんね。雑誌が入り口になることも、多いでしょうし。
山口:他にも、たとえば、レッドビーシュリンプでも近い話はあって。
板近:といいますと。
山口:レッドビーシュリンプという一つの品種がありますよね。これの販売時に、◯◯エビ、■■シュリンプ、海老の▲▲、などのブリーダー名が添えられることもあるのですが。
板近:たしかにありますね。
山口:ブリーダー名がそのままブランドのようになることもあるんですね。たとえば、「◯◯エビは大きくて卵をたくさん持つ」みたいな情報が付加されて、特別視されるというような。
板近:有名なブリーダーさんも何人か思いつきます。
山口:こういった場合、こだわりたい人は、レッドビーシュリンプという大きな集団(品種)から選ぶのではなくて、◯◯エビや■■シュリンプ、または海老の▲▲から選ぶこともできるわけで。
板近:ブランド名があるおかげで、追求しやすくなっている。
山口:ええ。これはこれで自然なことですよね。特に今はネット社会ですし、ピンポイントで情報にあたることができるから。
板近:はい。自然だと思います。信頼にも関わる話になるでしょうね。
山口:ええ。ブランド名はブリーダーと直結することが多いので、その場合には「あのブリーダーのエビが飼いたい≒あのブランド名のエビが飼いたい」となる。であれば、ブリーダーの方も責任を持って個体を提供するという循環が生まれるだろうし。
板近:そうした、ブランド名から得られる情報が理解できてくると、また世界が広がりますよね。広がるというか、深まると言うか。
山口:そうそう。そこを理解すると、より楽しめると思いますよ。アクアリウムはそもそも個人的でマニアックな面がありますし。
板近:また、簡単にはわからないところがあるからこそ、趣味としても面白さがあったりしますよね。なにもなければ、そんなにディープにならないわけですし。
山口:グッピーや金魚、錦鯉のようにきちんとした品種があって、その中に「◯◯養魚場産」というような付加の情報が、その魚の価値を高めることもある……という話であれば、わかりやすいと思うのですが、シュリンプのように品種という概念がわりと希薄な生物の場合、ブランド名が先行することもあって、それを少し難しいと思う人もいるかもしれないと。
板近:はい。でも、そこには「難しいだけじゃない」面白さもあると。
山口:ええ。それだけの話しを、本日はこんなに長くしてしまいました(笑)。
板近:私は楽しかったですよ(笑)。
生き物の名前は面白い
山口:まあ、今回はシュリンプの話で進んできたわけですが、シュリンプに限らず、人が作る、人が世に出したいと思う、そうした時点で差別化を考えるのは普通のことですよね。
板近:ええ。改良の世界はすごく深いですし、また追求もされていますから、そういう視点で見れば「追いつけない」という感覚があることも自然かもしれないですね。趣味って「深すぎて面白い」みたいなところもありますし。
山口:そうなんです。とくにサイクルが短い生物は追いつくのが大変で。その点、グッピーはすごいなぁと。ブルーグラスといえば、だいたいどんな魚かわかる。
板近:言われてみると……いくつかのグッピーの品種名とその姿は、幼い頃からあたりまえのように知っていますね。
山口:あれだけの品種があって、あれだけ世代交代が早いのに、とんでもないことだと思います。昔からコンテストも盛んでしたし、品種名の定着には先人の努力もあったのでしょうね。
板近:ええ。知らない品種名を聞くと「それは知らないグッピーだなぁ」と、ある程度知っている前提の思考が出てくるのもすごいですよね。
山口:それと、グッピーはネットが普及する前から有名な熱帯魚であったので、そうした整理や認識の共有が、しやすかったのかもしれない。たとえば雑誌で発表したらその名前が浸透するという風に。
板近:なるほどですね。
山口:今は、個人が発信できるので、ちょっと状況が違う。そういえば、金魚も最近はいろいろな名前が増えていますし、ネットの影響はたしかにあるかもしれません。まあ、金魚はそれでも整理されているか。
板近:もうだいぶ経ちますが、ピンポンパールという品種名を初めて知ったときの感覚は忘れられないですね。
山口:あ、あれはすごかったですね。
板近:たしかにピンポンパールだ……って。
山口:ええ。
板近:また、名前ってつける人によってセンスが違ったりするじゃないですか。メダカ特集を見ていたりすると、よく思います。そこがまた文学的というか、こう、なんか趣があっていいですよね。どこか、日本の古典園芸的な雰囲気の名前があったり。
山口:そうですね。メダカは先の800種図鑑では掲載した全てのメダカの名前にルビを振りましたが、あれは非常に役に立つ……というか作り手である私自身が便利に使っています(笑)。ご存知のようにメダカの名前には読み方が変則的なものもありますし。
板近:難しい漢字も多いですもんね。
山口:メジャーどころの幹之(みゆき)だって、普通、初見では読めないんじゃないかな。
板近:たしかに。
山口:今のメダカは、ブリーダーさんが各々に素敵な名前をつけていますが、それでもブームが続いているのは、それがメダカに合っているからかもしれない。
板近:そうかもしれないですね。こうやって見ていくと名前って面白いですね。
山口:面白いですね。
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