みなさんこんにちは。

アクアライフWEB編集部の板近 代です。

 

本日は、昨年月刊アクアライフに書かせていただいた記事に掲載しなかった写真とともに、いろいろとお話をさせていただきたいと思います。

「この写真は記事で使える!」と自分で納得できる写真を撮るために、どんな試行錯誤があったのか。

魚好きの方も、撮影好きの方も見ていただけたら嬉しいです!

山口 正吾山口 正吾

近頃このコーナーでは撮影の話ばかりしていますね。


板近 代板近 代

最近、自分で撮った写真を見直すことにより力を入れるようになりました。

アクアの雑談

アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、株式会社エムピージェー出版部長で月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部に社外からの協力スタッフとして参加している板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。

「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」残り在庫僅かです!

山口:さて、久しぶりのアクアの雑談ですが何をお題にしましょうか。

板近:そうですね……あ、昨年の月刊アクアライフ6月号ってまだ在庫ありますか。

山口:ありますよ、僅少ですけれど。

板近:よかった。以前山口さんに「昨年の6月号の記事で使わなかった写真を公開したいのですが」と相談させてもらったことがあったじゃないですか。

山口:板近さんに撮影と執筆をお願いした記事「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」で使わなかった写真ですね。

板近:はい。それで山口さんが「アクアライフブログでやりましょう」とおっしゃってくれて。ならば、昨年の6月号の在庫があるうちに……というわけで、本日のお題にさせてもらってよいでしょうか?

山口:どうぞどうぞ。

板近:自分の記事の宣伝で恐縮ではありますが、スマホでうまく撮れないという方にはぜひ「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」を見ていただきたく。

山口:良い記事なので、私からもおすすめします。ベタだけでなく、多くの魚で使える撮影テクニックだと思いますよ。基礎から解説しているので、初心者さんでもわかりやすいかと思います。

板近:ありがとうございます。「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」どうぞよろしくお願いいたします。

スマホでベタを撮影する方法をまとめた記事
月刊アクアライフ2022年6月号掲載記事「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」1ページめ

納得の写真を得るための試行錯誤

山口:さて、今回は未掲載写真公開ということですが、それは板近さん自身が記事には掲載できないと判断した写真ということですかね。

板近:写真の選別も私自身でやらせていただいたので、そうなりますね。

山口:つまりは、採用しなかった理由がある写真だと。

板近:そうですね。この撮影は「雑誌の記事に使う」という明確な目的があったので、その目的に届かない、もしくは合わないと判断した写真は全て不採用としました。

山口:舞台裏みたいな感じですね。

板近:ですね。“使えなかった写真”だからこそお話できることもあるかなと思います。

山口:それは面白そうです。特にこのブログでは、魚を被写体としたフォトコンテストもやっているし参考になるかもしれない。

板近:失敗は成功の母……というほどすごい話はできないとは思いますが、参考になってくれたら嬉しいですね。実際に、いくつかの失敗を経たからこそ撮ることができた写真もありますし。

山口:たくさん撮って厳選というのも、ひとつの方法ですよね。

アイデアを活かしきれなかった写真

ベタ撮影
未掲載写真① Photo by S.Itachika

板近:1枚目の未掲載写真はこちらです。

山口:こちらはどういう意図で。

板近:魚を撮る上で水面や壁面への映り込みって、けっこう使う手法だなと思っていたんですね。特にベタの水槽はそう大きくないことが多いので、映り込むシーンも多いかなと。

山口:それで映り込みの作例を作ろうと思ったわけですね。

板近:ええ。この写真はそのバリエーションとして、アクアリスト濃度高めの映り込みをやりたいなと思って。

山口:アクアリスト濃度高め……ですか。

板近:はい。水槽に使い込んだ水作エイトのカバー部分を沈めて撮影しました。自分の愛用したアクア用品を小道具とすることで、より濃い撮影ができないかなと。

山口:ああ、これは水作エイトなんですね。どこか、不思議な感じがありますね。ベルセルクのゴッドハンドの登場シーンのような……幾何学的というか。板近さんがこの写真で納得できなかったポイントはなんでしょう?

板近:この写真は作り込み不足というか、“水作エイトを使う”というアイデアを活かしきれていないと思ったんですね。撮り直そうかとも思いましたが他の候補が良い感じにはまったので、アイデアごとお蔵入りになりました。

山口:誌面に掲載できる枚数は限られていますもんね。

板近:載せ過ぎると1枚が小さくなってしまいますもんね、記事全体の流れなどもあるし。あ、そうそう、ちょっと引きの画像を見てもらえますか。

ベタ撮影
未掲載写真①(トリミング前) Photo by S.Itachika

山口:ああ、先ほど見せてもらった写真はトリミング後なんですね。

板近:はい。記事でトリミングを“簡単に写真の見え方を変えることができる手法”として紹介すると決めていたので、積極的に使用していきました。それで、本日見ていただきたいのは尾ビレの後ろの白いもので。

山口:これは、ろ過用のウールマットですか?

板近:ええ。水作エイトの煙突部分の穴を塞いでいるんです。内側から見ると、だんだん先が細くなっていく形状なんでベタが入り込んだら危ないなと。

山口:優しさですね。実際危ないでしょうから。普通は水作エイトのカバーの内側にベタが来ることなんてないですし。

板近:本来の使い方と違う使い方をすると、普段では起きない問題が起きる可能性があると思うんですよね。

山口:相手は生き物ですから。撮影のためだけではなく、魚をきれいに、または元気の良い状態でいてもらうための工夫も必要となる。そういう話はとても大切だと思います。

魚任せの撮影

ベタ撮影
未掲載写真② Photo by S.Itachika

板近:お次はこちらです。

山口:ちょっとパリッとしていないですね。

板近:まさにそこが未掲載の理由ですね。凄くシンプルな理由です(笑)。

山口:(笑)

板近:実はこちらも、先程話したような撮影時のトラブル防止例としてちょうどよいかなと思い、紹介させていただきました。

山口:いったい、どんな安全策が。

板近:水草はみっちり詰めずにふわっと浮かせるだけで、魚をこの場所に追い立てたりもしていないんです。無理させちゃうと体が擦れて良くないかなと。

山口:柔らかい水草ではあまりないことかもしれませんが、表面の硬い植物やざらついた植物もあるし注意したほうが良いかもしれないですね。

板近:ええ。なので、水草を浮かべた後は魚がここに来るのを待って撮影しました。

山口:魚任せの撮影となると、時間かかりそうですね。

板近:この写真は意外とすんなりいったと記憶しているんですが、さっきの水作エイトの写真はわりと時間がかかったはずです(笑)。

山口:なるほど(笑)。これは上から撮っているんですか?

板近:そうですね。背中がとても綺麗なベタだったので、そこを見せたかったんですが……写真のクオリティが不足していますね。

山口:実際はもっと綺麗だったと。

板近:はい。伝えたかった美しさが伝わらないなと。そんな理由でも、採用しませんでした。そうそう、この撮影では餌での誘導も行なっていません。これも無理して水草エリアに入り込まないようにするためですね。

山口:餌があるとどうしても勢いづいちゃいますもんね。

板近:ですね。餌での誘導は環境的に問題のない撮影、なおかつ餌が写真に写っても問題のない時だけ使用しています。餌のあげすぎはよくないので、日に何度も使える技でもないですよね。

山口:餌をあげると、お腹が大きくなって、魚の見た目も変わってしまうのが難点ですよね。また、餌をあげるとフンをすることもあるし。

画質を落としたい……?

ベタ撮影術
未掲載写真③ Photo by S.Itachika

板近:最後の写真はこちらです。こちらも作り込みが足りないという理由で未掲載にした写真ですね。あと、説明が長くなりすぎるという理由もありました。

山口:うーん、たしかに話が長くなりそうな気配のする写真です(笑)。

板近:(笑)。古いB級映画みたいな雰囲気で、ベタが宇宙に飛んでいるみたいな写真を撮りたかったんですね。それで、水槽の後ろにラメのフェルトを置いて……と、言葉で説明するとやっぱり長いので、撮影風景をお見せしますね。

ベタ撮影
未掲載写真③撮影風景 Photo by S.Itachika

山口:いろいろ使っていますね。

板近:撮影前に100均で演出に使えそうなものをあれこれ買っておいたんですね。その中からいくつかセレクトして、雰囲気づくりに利用しました。

山口:水槽の手前にある透明な板はなんでしょう?

板近:よくぞ聞いてくれました! これがこの撮影の最も重要なパーツです!

山口:ずいぶんと前のめりですね(笑)。

板近:(笑)。こちら、スマホ用の拡大鏡を分解してレンズ部分だけを取り出したものなんですね。拡大のための製品ですが、角度や距離を調整することで向こうにあるものが歪んで見えたりするんです。あと、光も変わった感じで反射するので特殊な演出ができるんですね。

山口:たしかに光が面白い形で入っていますね。オレンジの光は小さなランタンの光の反射かな。

板近:ですね! そしてこの“拡大鏡分解パーツ”のもう一つの大きな効果に、解像感の低下があるんですね。これが熱い! 拡大鏡として使うときはできるだけ綺麗に見える距離や角度に調整すると思うので、真逆の使い方ではありますが……。

山口:マイナスではなくプラスの効果として、ですか?

板近:さっきお話したように、古い映画のような雰囲気を出したかったのでプラスですね。手作りの宇宙に、合成感のあるベタがいるような写真が撮りたくて。それを狙うには、最近のスマホは画質が良すぎるんです(笑)。

山口:(笑)。たしかにきれいに撮れますよね。

板近:撮影後に加工してレトロ調にできたりもしますが、この撮影では、加工ではなくシャッターを切る段階でやりたかった。そういう例を出せれば、100均で撮影小物を探す面白さを感じてもらえるかなと思ったんですね。

山口:板近さんらしい発想ではあります。けっこういろいろ買い込んでましたよね?

板近:使わなかった小物もいくつかありました(笑)。あと、工夫としては撮影時に、フィルター(以下写真)をスマホのレンズの前にかざしてあるんですね。

引き伸ばしレンズ用フィルター
こちらは100均ではなく中古カメラ店にて入手 Photo by S.Itachika

山口:これはまた古そうな品ですね。

板近:スマホのレンズは小さいので、こうした品をレンズの前にかざして使うという技法が使えるんです。こちらも距離や角度で効果が変わります。

山口:手でかざしているのなら距離感などの調整も手でできますね。

板近:はい。たとえば今回は、写真全体にぼんやりとオレンジのネットがかぶるように調整しています。

山口:へー、面白いですね。

板近:面白いです! 

山口:これは、普段から興味を持ってカメラに触れていて初めて生まれるアイデアですよね。中には、直感でこうした表現を思いつく人もいるかもしれませんが。

板近:本来の使い方ではないからこその写真が撮れたりもするので、ぜひ試してみてください。

山口:と言っても、このアート紗フィルターというのかな? これは手に入らないですよね。

板近:すみません、説明不足でしたね。こうした古いネット状のフィルターは中古カメラ店などで入手できることがあります。でも、山口さんの言う通り、どこにでもあるタイプではないですね。

山口:フィルター収集をしている板近さんが言うなら、そうなのでしょうね(笑)。

板近:(笑)。見つからないという方は、キッチンで使う水切りネットとかで似たようなことができますよ。

山口:たしかにフィルターにこだわらなければ、ネット状の製品というのはたくさんありますね。

板近:ええ。いろいろなネットを試すと楽しいと思います。フィルターは他にもいろいろあって…………あ! ちょっと宣伝になってしまいますが、ちょうど少し前に「素敵★レンズフィルター」という記事を公開したのでよかったら参考にしてください。こちらは私が個人で書いている記事で、無料で読めますので。

山口:私も後ほど見てみますね。

板近:ありがとうございます。今後また、スマホでのフィルター使用についてじっくり解説する記事などもやろうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

楽しく写真を撮ろう! 楽しく写真を見よう!

山口:こうしてふりかえると、あの4ページの記事にはたくさんの試行錯誤があったのですね。

板近:いろいろ撮りましたねー。そのおかげで面白いアイデアを得られたりして楽しかったです。

プラカット
撮影期間終盤に撮った1枚。ここまで試行錯誤を続けてきた結果、落ち着いて撮影することができた(月刊アクアライフ2022年6月号記事「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」掲載カット) Photo by S.Itachika

山口:私は保守的というか、あまり写真で工夫をするタイプではないのですが、工夫して失敗するのも糧になるというか、そういうところ込みで写真は楽しいですよね。

板近:ですねぇ。また、写真を見るのも楽しいですよね。

山口:楽しいですねぇ。

板近:前回のフォトコンで、私と山口さん二人ともが選出したアカグツの写真あったじゃないですか。

アカグツ
【投稿者】@akachangutuko【撮影機材】iPhone14Pro【選出者】板近・山口

山口:良い写真でした。あれも宇宙的でしたね。

板近:今日見てもらった宇宙ベタの写真を公開しようと思ったのは、このアカグツの写真を見るよりも前のことであったのですね。

山口:板近さんから写真公開について相談を受けたのは、フォトコン開催前でしたもんね。

板近:ええ。フォトコンが終わったあたりで公開させてもらおうかな……と思っていたところでこのアカグツの写真を見ちゃったものだから、公開するのがすごく怖くなっちゃって。自分が描いた宇宙よりもすごい宇宙を見ちゃったから。

山口:写真をやっていると、そういうことはあるかもしれませんね。

板近:自分のはるか上を行く写真と出会うことってありますよね。それこそ、今話に出ているフォトコンテストは自分よりも上手かったり、見事な表現をされている写真だらけですし。

山口:学ぶこともたくさんありますよね。

板近:ありますね。そういう作品を見た経験や、撮影時の試行錯誤などが、今の撮影につながっているのだなと思います。

山口:写真は本当に奥が深いですよね。今日、未掲載写真を公開してみてどうでしたか。

板近:この経験も、自分の今後の撮影のプラスになったと思います。写真はうまく撮れることが全てではない、成功が全てではないと、改めて思いますね。山口さん、そして読者のみなさん、本日は私の写真を見ていただきありがとうございました。

山口:上手く撮れなかったけど良い写真なんてのもありますもんね。

板近:ありますねぇ。ほんと、写真は楽しいですね。

アクアライフ2022年6月号表紙
「スマホで簡単! “いい感じ”ベタ撮影術」掲載のアクアライフ2022年6月号の詳細は上の表紙画像をクリックでご覧いただけます!

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