みなさんこんにちは。
アクアライフWEB編集部です。
先日発売となった、月刊アクアライフ1月号「2021年アクアリウム超図鑑800」。
その特集担当をつとめたのは、アクアの雑談でもおなじみの山口 正吾。
本日は、そんな“図鑑を作る側”である山口に、いろいろと質問してみました。
図鑑作りについてや、図鑑への思いなどなど。
超図鑑を手にとっていただいた方も、そうでない方もぜひご覧ください。
図鑑号、好評です。皆さんもぜひ。
800種掲載と知った時は、びっくりしました。
アクアの雑談 アクアの雑談は、その名の通りアクアリウムに関する「雑談」をお届けする連載です。お題は回ごとにいろいろ! 雑談いたしますのは、月刊アクアライフ前編集長の山口 正吾(やまぐち しょうご)と、アクアライフWEB編集部の板近 代(いたちか しろ)。雑談ならではのお話を、どうぞお楽しみください。 |
2021年アクアリウム超図鑑800発売!
板近:本日の雑談のお題なのですが……私から一つ、山口さんにお願いしたいことがありまして。
山口:はい、なんでしょう。
板近:先日発売したばかりの2021年アクアリウム超図鑑800(月刊アクアライフ2021年1月号)について、いろいろお聞きしたいなと。
山口:大丈夫ですよ。なにか気になることはありましたか?
板近:ええ、いろいろと! あ、その前に読者さんに、ちょっとした説明をさせていただきますね。
山口:はい。
板近:ちょっとややこしいかもしれませんが……私、板近はこのブログをメインとするアクアライフ“WEB”編集部の一員としてお仕事をさせていただいておりまして、雑誌、つまり、月刊アクアライフ編集部のメンバーではないのですね。この前提をお話しておかないと、「なんで編集部内でインタビューしてるんだろう?」と疑問に感じられる人もいるかと思いまして(笑)。
山口:この告知は大切ですね。自作自演と思われるかもしれませんから(笑)。
板近:(笑)。WEB編集部員という立場上、前もって雑誌の特集内容やスケジュールを聞いたりすることはありますが、基本的に私が月刊アクアライフの編集に携わることはありません。なので今回の図鑑も、完成後に初めて見ました。
山口:そのこともあり、板近さんには少し客観的に見てもらえると思います。私たち雑誌編集の仕事を。
板近:さすがにちょっと緊張しますね。自分で提案しておきながらなんですが。
山口:お気軽にどうぞ。
板近:ありがとうございます。前々から山口さんに、雑誌編集についていろいろ質問したいと思っていたんで、嬉しいです。
山口:私たちは皆さんに見てもらう雑誌を一所懸命作っているわけで。その中で独特な工程はあるにせよ、わりとオープンな仕事だと思っています。ですから、NGな質問も少ないと思いますよ。
板近:はい! では、いろいろ聞かせていただきます!
担当決定から、800種掲載まで
板近:今回の特集「2021年アクアリウム超図鑑800」は、山口さんが担当されたのですよね。
山口:ええ、そうです。
板近:山口さんが、特集担当となった理由はどのような理由でしょうか。
山口:アクアライフは担当が持ち回りなんですね。それで、だいたい1〜2年先くらいまで特集の担当は決まっていて、私は2021年1月号の特集担当だったというわけです。
板近:そんなに先まで決まってるんですね!
山口:ええ、企画自体が決まるのはもっと近くなってからですけどね。3ヶ月くらい前に固める感じ。
板近:なるほど、誰が担当するかは先に決まっていて、その後に企画が。
山口:はい。それで、今回の号は編集長が変わって初めての新年号だし、なにか大きな企画をできないかなと。そんな気運が部内にあったんです。私もそういうお祭りごとみたいな仕事は嫌いではないし。
板近:お祭りごと、たしかにそういう印象もあるかもしれません。図鑑号はちょっと違う雰囲気を持っているというか。
山口:遡れば2007年かな、初めての図鑑号は。その時も「一丁やったるか」みたいな感じですよ。武者震いするというか。
板近:そうだったんですね。今回の号は前回の図鑑号から、ちょうど2年後となりましたね。
山口:そうそう、それまでは3年おきにやっていたんだけれど。
板近:今回は、1年縮めたわけですね。
山口:あまり深い意味はないんだけれど、新編集長のやる気の現れですかね。
板近:なるほどです。今回は、前回の号から300種追加の800種掲載となりましたが、その決定をしたのも山口さんでしょうか。
山口:そこはなんとなくというか。図鑑号は前からやっているから、それより小さい数字ではインパクトがないし。
板近:かなりの増量ですよね。前回の6割増しという。
山口:だんだん図鑑の作り方に慣れてきたこともあって、これくらいはいけるかなと。本当は750種でもよかったんだけれど。私はクォーターで刻むのが好きだから(笑)。
板近:(笑)
山口:ただ、新年号だし、末広がりの八はいいだろうと。それにページ数に限りがある中で、1ページ何点であれば何種の図鑑になるという計算もあって。そのマックスが800種だった。
板近:ページの許す限界まで掲載したというわけですね。800種、本当に見ごたえがあります。
図鑑第1号と表紙のイラストと
山口:板近さんは、最初の図鑑号(2007年1月号)をお持ちですか?
板近:実はその号はもっていなくて。
山口:なるほど。その時は419種掲載だったんですよ。なんでだかわかります?
板近:いえ、わからないですね。
山口:わからないんですね。
板近:あ! わかった気がする!
山口:どうぞ。
板近:419で飼育ですね!
山口:そうそう。うちは飼育雑誌ですから。それを駄洒落で。
板近:よかった間に合って(笑)。
山口:4と9って、わりと敬遠される数字ですけれど、それを突っ込んだ。駄洒落優先で。まあ、そんなことでテンションを上げていたんですね。会議で駄洒落を言ったりしながら。
板近:ほかにもいろんな駄洒落が出たんですか?
山口:うーん、うちはけっこう小特集のタイトルやキャッチなどにも駄洒落、またはそれっぽいのは使いますよね。ただ、パッと思い浮かびません。駄洒落なんて覚えていないですよね(笑)。
板近:(笑)。では、そこは皆さんそれぞれで、お手持ちのアクアライフから探していただくことにしましょう。
山口:編集部に駄洒落を使いがちな人間がいるんです。
板近:駄洒落が得意な方がいらっしゃるんですね。
山口:得意というか、中年男性の特性なんじゃないですか。
板近:超ストレートな答えが(笑)。
山口:独特な感性の人もいますから。
板近:その独特な例を一つ二つ教えてもらえれば。
山口:今までで一番面白かったのは月刊アクアライフ2008年11月号の特集タイトル「秋だから、淡水エイ」ですね。意味がわからないですよね(笑)。
板近:秋だから、淡水エイ……たしかにちょっと意味が…………。
山口:特集担当の発案で、私がOKを出したのですが。モトロを上から見た様子が紅葉(こうよう)のようだとか、担当がそんなことを言っていた記憶がありますが。あと、入荷シーズンでもあったのかな。
板近:今までの人生、モトロから紅葉を連想したことはなかったですね。でも言われてみると秋っぽい気がしてきました。
山口:なんにせよ普通じゃないです。熱帯魚、しかも当時まだまだマニアックな淡水エイを日本の四季と結びつけた。そのセンスがとても面白くて。
板近:たしかに。
山口:あのタイトルは一生忘れないだろうな。
板近:来年の秋に紅葉を見て、モトロを思い浮かべそうです。
山口:話は前後するのですが。419種図鑑表紙のイラストは読者さんに描いてもらったんですよ、それも思い出深いですね。
板近:素晴らしいイラストですね。
山口:トの字さんという常連投稿者さんで。味わい深いイラストをたくさん送ってもらっていたこともあって、思い切ってオファーしたんです。
板近:このイラスト、ポスターとかタペストリーでほしいです。
山口:実は私もトの字さんのイラストをカラーコピーして家に額縁で飾っていました。
板近:飾りたくなります。本当に素敵なイラストを描かれる方ですね。
図鑑作りについて
板近:800種と大増量となった超図鑑、実際に作ってみてどうでしたか。
山口:けっこう面白かったですよ。しばらく記事で扱っていない魚に触ってみて、学名が変わっていたりとか、そういうことにも気付いたり。
板近:たしかに、これだけたくさんの種類が登場するというのは、図鑑号ならではですよね。そういえば、800種を編集部の皆さんで分担されたのですか。
山口:そうです。私は800種のうち240種を担当しました。また私が特集担当なので、その他全体のとりまとめも私。とりまとめとは、全体のスケジュール管理やカテゴリの担当分配などですね。
板近:なるほどです。分配して、それをまとめる。その指揮もとられていたわけですね。
山口:そうですね。800種となると、しっかりとした管理が必要ですから。だいぶ前から準備を進めていました。
板近:管理するだけでも大変そうです。
山口:方針についてもしっかりと共有しなくてはならないし。たとえば、今回の図鑑には分布、大きさ、性格、水質うんぬんという記述がありますよね。
板近:ええ。
山口:あれだって、担当それぞれで基準が異なると、図鑑として態をなさないし。
板近:たしかに。
山口:たとえば、項目に「性格」を入れたいという意見が他の部員からあって。
板近:性格は前回の図鑑号にはありませんでしたよね。すごくありがたい項目だなと、開いてすぐに目につきました。
山口:ありがとうございます。性格、つまり混泳のしやすさなどは、読者の知りたいところだろうけれど、それを実際に文字にするのはとても大変で。
板近:はい。
山口:だから、その項目の設定自体が可能なのかという検討から入るんです。で、何とかなりそうとなった場合には、基準を考える。
板近:性格の項目も、そこを経て採用となったわけですね。
山口:悩ましいのはシクリッドなどのペアの絆が強い魚で。いつも荒いとは言えないけれど、かといっていつも大人しいとは言えない。他に肉食魚。イメージとしては獰猛ですが、餌として他の魚を食べているだけで気性が激しいわけではない……そんな魚がたくさんいます。
板近:今回の「図鑑の読み方」でも、繁殖期や捕食について触れられていましたね。
山口:そういったすり合わせを編集部内で重ねながら、基準を作っていく。あがってきた原稿をチェックして違和感があれば、あらためて記述を検討する。そんなことを繰り返すわけです。
板近:図鑑となると掲載種が多いだけに掲載できる文字数も限られていると思うのですが、そういう意味での難しさはありましたか。
山口:今回は一種につき70字くらいの解説として……ただ、前後で多少の調節はできるようにしていました。たとえば10種だったら700字くらいの解説としようと。つまり、厳密に一つ70字とはしなかった。ですから、あまりその点は苦労はなかったかな。
板近:もう少し具体的にお話しいただけますか。
山口:たとえばシュリンプであれば、一番先頭の種類にシュリンプ全般の傾向を記しますよね。「高水温に注意」とか。だから多少長くなって70字は超える。でも、以降の種類ではそれを書く必要はないので70字以内として調整できる。
板近:掲載順なども、そうした解説上のバランスなどを考えて決められているわけですか。
山口:それはありますね。たとえば、アピストであれば普及種のアガシジィあたりから解説を始めると流れがスムーズになります。逆を言えば、いきなり未記載種から解説はしない。わかりづらくなるから。
板近:たしかに、未記載種からであると戸惑いそうです。
山口:流れできて、そのグループの最後に「こんな魚もいますよ」と未記載種を提示する。その方が自然です。
図鑑への思い
板近:話は変わりますが、図鑑って多くの生き物好きにとって特別な存在だと思うんですよね。
山口:はい。
板近:飼いたい生き物を探したり、今はまだまだ手を出せない生き物に憧れたり。
山口:夢が膨らみますよね。
板近:はい。子どものころ、図鑑がボロボロになったなんて人も多いと思うんですよ。
山口:ええ。
板近:それで、そんな図鑑だからこそ、山口さんの図鑑への思いを聞かせていただきたいなと思いまして。
山口:それは編集としてですか?
板近:そうですね、編集としての思いと個人的な思い、両方聞かせていただけると嬉しいです。
山口:わかりました。まず編集としてですが、やはり読者の皆さんが熱帯魚への興味をより強くする、そのお手伝いができればいいなと思っています。より好きになってもらうというか。
板近:図鑑をきっかけに興味を持つ、この経験は私もありますね。
山口:対象が広がることも図鑑の面白さで。「こんな種類がいたんだ」という発見は喜びになりますよね。
板近:図鑑に、自分の知らない種類を求めているところはありますね。
山口:そもそも熱帯魚ほか観賞魚は、対象となる生体の種類の豊富さも魅力ですから。図鑑でそういった世界であることを気づいてもらえると嬉しいですね。
板近:他に、図鑑ならではの魅力というとなにがありますでしょうか。
山口:閲覧性の高さは魅力だと思いますよ。
板近:たしかに、図鑑はまとめて見れますもんね。
山口:ほかに読む側が意図しない種類が載っている。これも特徴ですよね。
板近:そこ大きいですよね。図鑑だと自然とページに掲載されている他の魚も目に入る。
山口:編集者が介在する媒体のよさはそこにもあると思っています。その編集者、ないしは雑誌や出版社とセンスが合うととても楽しい読書体験になりますから。
板近:雑誌を通して人と人とのセンスが出会う。これってとても素敵なことだなと思います。
山口:ですね。同じカテゴリの雑誌でもセンスが合わないものもある。例えば、週刊文春が好きな人もいれば、新潮が好きな人もいるという具合で。
板近:では、今度は山口さんの図鑑への個人的な思いを聞かせてください。
山口:小さい頃は人並みに読んだと思います。恐竜図鑑とか。あと思春期の頃はカタログが好きでしたね。ファッション雑誌ってカタログ部が多いじゃないですか。イメージカットに続いてカタログがある。
板近:図鑑にしろカタログにしろ、同じジャンルのものをまとめて見ていくのって独特の楽しさがありますよね。
山口:熱帯魚の図鑑はその中間にあるのかなと。
板近:「中間」ですか。
山口:恐竜を買うことはできないけれど、熱帯魚なら実際に売っているから図鑑を見て次の行動に移しやすい。私も読者の頃はアクアライフを読んで、熱帯魚ショップに足を運びました。
板近:前回話されていた、図鑑を作っていて「飼いたいなぁ」となったエピソードにも通じますね。
こんな図鑑の楽しみ方、どうですか?
板近:図鑑って、読む人によっていろいろな楽しみ方があると思うんです。たとえば、初心者さんだったら初めて見る魚だらけで楽しいだろうし。ある程度知っている人なら逆に「知ってる魚何匹載ってるかな」と知識を照らし合わせてみたり。
山口:いろいろな楽しみ方がありますよね。
板近:そんな感じで、山口さんの「図鑑の楽しみ方」があれば教えていただきたいのですが。せっかくなので、今回の図鑑の。
山口:そうですね。……図鑑を見て夢想するのもよいのですが、実際にショップに行く際の足掛かりとして欲しいですね。うちの図鑑は、ショップの生き物の取り揃えと、わりとうまくリンクしていると思うので。知らない種類を飼ってみたいとき、ショップで探し物をするときの手助けになると思います。
板近:おお、それは重要なポイントですね!
山口:勉強のための生物図鑑と違うところはその点にあって。これは図鑑号に限らずアクアライフ自体の特性だと思いますが。
板近:ショップで魚と出会う、飼育する、そういうことに寄り添った図鑑であるということですね。
山口:先も言ったように、誰か(編集部)が選んだ魚種が載っているわけで。別の言い方をすれば、おすすめの魚たちですよね。
板近:おすすめの魚800種。そういう視点でみると、また違った見え方をしそうですね。
山口:だから「悪い魚じゃないんだ」と思ってもらえたら。まあ、悪い魚というのも存在はしませんが。
板近:山口さんの信条である「どんな魚にもよいところがある!」ですね。
山口:そうそう。飼育者に楽しめる度量があれば、どんな魚でもいい魚。
板近:そういう思いが込められている図鑑であると。だから、アクアライフの図鑑は「読み心地」がよく感じるのかもしれません。
山口:ありがとうございます。あまり人間本位で良い悪いを決めていいもんじゃないと思うんですよ。道徳的な根拠ばかりではなくて、それをしてしまうと、かえって趣味の範囲が狭くなるから。「いつか家の水槽で深海魚を飼える日が来る」そう思っていた方が夢があるじゃないですか。
板近:ええ。まさに「魚とのコミュニケーション(アクアライフのキャッチコピー)」のための図鑑なのですね。
山口:そうかもしれませんね。他になにかお聞きしたいことはありますか?
板近:いろいろあったはずなのですが、いざ話し始めると上手く出てこないもので。やはり緊張しているようです(笑)。
山口:(笑)
板近:では、あと一つ質問させていただきます。今回の図鑑には「読者投稿」が掲載されていますよね。前回の図鑑号でも読者投稿を掲載されていましたが、そこにある思いとはどのようなものでしょうか。
山口:思いですか……そうですね、アクアリウムってものすごく熱意のある愛好家が多いじゃないですか。
板近:知識のある方もいますし、飼育の上手い方もいますよね。
山口:それで編集部が4人、カメラマンが2人の体勢で図鑑を作りましたが、となると6つのセンスになりますよね。
板近:はい。
山口:読者投稿にはその6つ以外のセンスを提示してもらえる機会を作りたいという思いはありました。
板近:そうだったんですね。
山口:読者参加型といえば簡単だけれど、それだけでもないというか。私たち編集側の人間もこれまで触れることのなかったセンスによって刺激を受けたい、そんな気持ちもあるんです。
板近:様々なアクアリストのセンスが掲載されている。そう考えると、さらにこの図鑑が面白くなりますね。
山口:板近さんは今回の図鑑を見てどう思いましたか?
板近:なんか今回の図鑑、今まで以上に没入感を感じたんです。最初、なんでかわからなかったんですが、ついさっき、それが掲載スタイルから来ていることに気が付きまして。
山口:といいますと。
板近:今回の図鑑では、写真の下に解説を置かず、写真と解説を分けて掲載されるスタイルを採用されていますよね。写真は写真、解説は解説でまとめて。
山口:ページレイアウトについて、ですね。
板近:そのおかげで、写真だけが目に入る。そこから来る没入感なのかもしれないと。それに気がついて、すごく感動しています。なんだか、実際にお店で魚を見ている時の感覚に近くて。
山口:編集としては800種も掲載するのだから、なるべくシンプルにしたいという考えがあって、ああいうスタイルにしたんです。そんな風に読んでいただければ、こちらも嬉しいですね。